第323話 (2002/06/07 ON AIR)
『轍』 作:中村 賢司(鋼鉄猿廻し一座)

砂浜
打ち寄せる波の音
電動車椅子の音が聞こえてくる

コウ兄ちゃん、かっこいいー。

何がや、アホ。

スゴイなあ。どんなとこでもいけんねんなあ。

一応、最新式の車椅子やからな。

海入って、海。

入れるかぁ、アホ。

コウ兄ちゃん、見て見て、後ろ。

何や。

すごーい。道、出来てる。


電動車椅子の音
兄 妹から離れる

なあ、もっと、道、書いて。

アホやなあ。

何?
サオリはアホや。
アホ言わんといて。

アホにアホ言うて何が悪いねん。

うちにアホアホ言うのコウ兄ちゃんだけやで。

アホはアホやろ。お前、ホンマに頭おかしいねんから。

(泣きまねをして)
えーん、えーん、コウ兄ちゃんだけやで。うちの周りでうちのことボロクソ言うんは。いじわる。

しゃあない。兄ちゃん、正直やねん。

もー、サオリは女の子やねんからちょっとはいたわりいよぉ。

あんな、サオリは女の子やから、みんないたわってんのとちゃうで。それはな、サオリが、生まれてから今までずーっとアホで、施設行って、擁護学級行って、作業所行って…。
まわりのやつらは気ぃ使っとんねん。必死にご機嫌とって、楽しませて、で、とりあえず、自分らの義務はたした思て、ていねいにトロッコ乗せて、先の駅へ蹴飛ばすねん。サオリはコロコロコロコロ、レールの上を転がっとるだけや。サオリはアホやからな、トロッコの中から嬉しそうに手え振っとんねん。それ見てな、まわりのやつらは安心するねん。

ふーん。うち、アホやからようわからんわ。


妹 楽しそうに笑っている
電動車椅子の音
兄 妹に近づく

作業所、辞めたんか?

うん、辞めた。

何でや…いじめられたんか。

ううん。あっこな、ぬくうないねん。

どっこもぬくいとこなんかないで。

あるよ、コウ兄ちゃんはぬくい。

え?

コウ兄ちゃんは、めっちゃぬくいよ。


波が打ち寄せる
妹 波打ち際に走っていく

コウ兄ちゃん、覚えてる?二人で海行ったやん。だいぶ前やけど。

もう忘れた。

うち、嬉しかってん。うち、あん時、学校ですっぽんぽんにされて、えーんえーん泣いてて、ほしたらコウ兄ちゃん「おなかにたまった嫌なもん捨てに行こう」言うて、海、連れてってくれたやん。

せやったかな。

うち、砂浜でいっぱい泣いて、いろんなもん海に吐いて、朝、食べたご飯とか味噌汁とかも吐いて、砂だらけになって、ほんで、からっぽになって…コウ兄ちゃん、走ってきて、きちゃなくなったうちの顔、きれーに拭いてくれた。コウ兄ちゃん、ほんで、うちにチューしてくれたやん。

……。

コウ兄ちゃん、あん時、走れとったなあ。まだ、あん時、走れとったなあ。

サオリ。

何?

もういろんなとこ、連れていってやられへん。

なんで?

今日で最後や。だから、海、連れてきた。兄ちゃんのこの機械な、かっこええけど、あんまりいろんなとこ行かれへんねん。


電動車椅子の音
兄 妹から離れる

コウ兄ちゃん、いっぱい吐いたら?海にいっぱい吐いたら?オエーって。


電動車椅子の音が止む

やっぱり道や。道、出来るなあ。

轍や。

ワタシ?

ちゃう。轍や。なんか、こう、難しい漢字書くねん。
(空中に漢字を書いてみる)

んー?んー?

知らんでええ知らんでええ。サオリは、あんまりもの考えたら、知恵熱出るやろ。

(楽しそうに)
何よー。


電動車椅子の音

(叫んで)
コウ兄ちゃん。

何や。

チューしたろうか?足にチューしたろうか?

ええわ。気色悪い。

コウ兄ちゃん、道出来てる。ちゃんと道出来てるわ。

何やねん。

そこで待ってて。うちな、今から、この道、歩いていくから。


波の音がする



※おことわり
このシナリオは原文のまま掲載させて頂いております。
一部放送と異なる箇所があることを御理解ください。