328話(2002年7月12日 ON AIR)
「今年も十九」

作・

津 篤史

  
 

ひぐらしが鳴いている

  
氷イチゴちょうだい。

ん。

今日も暑かったなぁ。

こたえるわ、ほんま。

もうかった?

平日はな。

ん。

いや、休日もな。

  
 

女少し笑った

  
夏のさかりにお寺参りもなあ。

うん。

迎え火の頃にはにぎわう思うねんけど。

うん。

かなわんわ、こう暑いと。

おっちゃん暑さで影うすなってるで。

ほんま、溶けてなくなりそうや。

ええとこやのにな、ここ。

うん。

日影やとええ風吹くし。

まあな。

気持ちええのに。

今日で4回りやな。

え。

いちご、メロン、レモン、いちご、メロン、レモン。

うん。

ほんまに、まあ、あきもせんと。

毎日。

うん。

ええおとくいさんやろ。

店ひけたら飲みに行くか。

ええ大人が何いたいけな少女を誘ってんの。

少女って。

19やで。

未成年か。

うん。

今時、未成年もないやろ。

不良やな。

  
 

と女 少し笑った

  
俺の事もおっさん言いな。まだ30になったばかりや。

三十路やん。

まあ、な。

若い、若い。

ええ年した大人が何、氷いちご売ってんねんて思ってる?

え。

やりたい事あってな、この年でバイト暮らしはきついで。

  
 

女 少し笑った

  
すまん、ちょっと語り入ってるか。

(笑って)ううん。

19か、ええなあ。

今年も19、去年も19。

え。

何か、昔話にそういうのなかった?

昔話、日本の。

うん。

今年も19。

そ、今年も19、去年も19、ぶーん、ぶーん。

ぶーん、って何。

糸車やったかな。

糸車。

糸車がうたうねん。たぶん。今年も19、去年も19。

何やようわからんな。

うん。

  
 

と女 少し笑った

  
昔話いうたらな。

ん?

アメ買いにくる話知ってる?

何、何。

夜、小さなアメ売り屋さんのとこにな、若い女の人がアメ買いにくるねん。

怪談?

(少し笑って)毎晩な、アメ一つだけ買って帰っていくねん。不審に思ったアメ屋のおっちゃんはな。

うん、うん。

おんなの後をつけていく、と、そこは墓場やった。

  
 

日暮らしは鳴きやんでいる

  
うん。

とある墓の前で女は消えてまうねん。腰を抜かしたアメ屋さん。

甘いもん好きの幽霊?

いやいや。ふと、我に返って耳を澄ますと、かすかに聞こえるのは赤ん坊の泣き声。

赤ちゃん。

女の人は妊婦さんでな、死んでから赤ちゃんが生まれたんや。我が子ふびんな女の霊は夜毎、アメを買いに現れた、と。

ふぅん。

夏らしい話を一つ。

  
 

女 少し笑った

  
その糸車の話ゆうのも怪談か。

あんまし、よう覚えてへんねん。覚えてるんは、

今年も19。

今年も19、去年も10、ぶーんぶーん。糸車が歌うねん。

やっぱり何やわからんな。

女の人の声でな、歌うねん。

え。

もうじき忙しなるな。

ああ、迎え火か。

うち、人ぎょーさんおるん好かん。

まあ、な。

おっちゃんは商売あがったりか。

おっちゃん言うな。

30。

まだまだ。

うちもまだまだ。

19…。

  
 

女 少し笑った

  
なあ、自分、どこに住んでるん?

あっち。

  
 

日暮らしの声