330話(2002年7月26日 ON AIR)
「あのとき」

作・

久野 那美

  
 

日曜日の朝
外は雨が降っている……

  
……もし、あのとき……。

(眠そうに)ん?

もしも、あのとき私が電話とってたら…。

…。

どうなってたのかな。

(眠そうに)なんだよいきなり…。日曜の朝っぱらから意味深につぶやいたりして…。

日曜の朝から大声で話すのも変じゃない?

そりゃそうだろ。俺はまだ寝てるんだから。

起きてるじゃない。

隣でそんな風につぶやかれたら目が覚めるでしょう。

…起こしちゃった?ごめん。

……ごめんて……。

今日で4年。

…4回忌なのよ。

ああ。お義母さん…。

うん。

そうか。

雨だったね。あの日も。

そうだっけ?

……覚えてない。

いや…そうだった…気もする。

前の日から病院へ泊ってて。母が亡くなって。着替えるために帰って来たら、玄関の前にあなたがいた。

………。

びっくりした。
あの日、もし、電話機が故障してなくて、あの日、もし私がちゃんと電話に出ていたら…。

……。

あなた玄関の前で待ってなかったよね。

………。

ずいぶん待ったの?

…どうだったかな。

雨、降ってたでしょ。

……そうだったかな。

わざと出なかったんじゃないよ。電話。

…え?

だって。待ってたんだから。かかってくるの、待ってたんだから。

え…?

待ってたんだよ。あれからずっと。
でもかかってこなかった。もう、かかってこないと思ってた。

違うって…。かけたんだよ。何回も。

うん。つながらなかったんでしょ。

そう。だから俺は…。

電話機がね。壊れてたの。

はぁ?

全然、気がつかなかった。それどころじゃなかったし…。

だからびっくりした。

……。

あなたが玄関の前に座り込んでたとき。

……。

びっくりしたよ。雨の中、ひとりで帰ってきたら…。

喧嘩なんて、よくあることだったのにね。

……。

…あの電話、しょっちゅう故障してたのにね。

……。

母が亡くなったのはあのとき1回だけだったのにね。

なんで、そんな話今頃…。初めて聞いたよ。そんなこと。

初めて言ってみた。

なんで?

4年たったから。

は?

生物学的限界をクリアしたから。

……………???

知らない?生物学的には、恋愛の周期は4年なんだって。

何それ?

動物はね。4年たったら、熱が冷めて、他の雄とか雌とかに興味が向かうんだって。

…。

4年。経ったな、と思って。

……。

どんな風に4年、経ったのかなと思って。

……………。

  
 

目覚まし時計のベル

  
うわーっ。

何時?

7時。

何で7時に鳴るの?

セットし直すの忘れてた。

日曜日なのに…。

おまえが朝から妙な話するから、とっくに頭冴えてるよ。

ごめん。…珈琲、入れようか?

いいよ。入れてやる。

…なんで?

…なんとなく。朝食食ったら花買いに行こう。

仏壇に…。

……うん。

  
 

男起きあがり台所へ…

  
ねえ。

ん?

ついでに…パン焼いてもらっていい?…それと…ついでにゆで卵…。

「ついでに」…??

あ…。

何?

それと…玄関通るなら……新聞取ってきて。

…………。

  
 

外は小雨が降っている
いつもとおんなじ日曜日
だったりする