第344話 (2002/11/1 ON AIR)
「キンモクセイ」 作/深津篤史

ちっとも売れへんな。
え。

大体フリマいうたらもうちょっと都会でやるもんやで。

自分、今日仕事やゆうてなかったか?

外回りや。

えらい外回りやな。

行楽シーズンの土曜日やゆうのにまじめに仕事してられるかいな。

珍しな。

何。

仕事第一の几帳面な性格してるくせに。

こういう日もある。

うん。

また、あんた場所が悪いわ。ここ裏門やん。
ここしか空いとらんかってん。

ああもう。

せやけどしゃあないやろ。申し込みギリギリやってんから。

だからあんたはいつでも思いつきで行動するから。

放っといてくれ。

ほんまに。

自分も仕事に戻りい。なんぼ外回りやいうても外回りすぎるで。いって帰ってくるだけで…。

サクラや。

は?

サクラの一人もおらんと誰もよりつかへんやろ。

サクラか。

うん。

お客さん掘り出しもんぞろいでっせ。

あほ。

まあ見るだけ見ていってえな。見てくだけならタダよ。

あほか。

ま、見慣れたもんばっかしやろ。

なあ、何でフリマなんて…。

ああ、それ、50円は高いか。

このマグカップあたしが使ってるやつやん。

ああ、うん。

コーヒーメーカーうちら付き合う前からあんたがもってた。

500円。

どういう事?

どういう事ゆうてもなあ。

何それ。あたしに黙って引越しでもするん?

まあ、何や。

何?

いらんもんやしな。

え。

うん。

ええっと。

うん。

それってあたしと別れようってそういう…。

男 女の頭にさわった

何、何。

キンモクセイの花ついてた。

え。

ほら。

あ、うん。

たしか、裏門のとこで咲いとったな。

うん、なつかしなあ思て。

ああ。

昔な、ようちえんの行き道にさいててん。友達となつんでなよう、おままごとした。

へえ。

これも売ってまうん。

え?

ミントのはちうえ。

うん。

大事に育てたやつやろ。

この際な。

ええと。

あの、な。

人間、あんまり突然やと、どうタイショしたらいいかわからへんな。

自分ミントきらいやろ。

ええと。

この際思いきって。

ちょっと待って。

え。

ぽんぽんゆわんと、あたしもできるだけ、取り乱さんと話したいから。

うん、俺もその、言い出しにくいから。

あとには、今晩、あたしんち行くから。

ええと。

一発なぐってもいい?

え?

ちょっとすっきりせえへんから、何かごっついむかついてるから、一発だけ、それで気が済むから

うん。

パンと女が男をたたいた

え。

いや、その中々、言い出しにくくて。

え、え。

で、その思い切って売っ払って、で、すっきりしてから言おうと思って。

ちょっと。

まあ、その何や、そういう事。

ちょっと待って。そういう事って。

うん。

あたし、てっきり。

いや、ゴカイさせてしもて。

たたく前にいうな。

いや、思いきりが、ついてええかな思て。

あほ。

うん。

そのミントいくら?

え?

あたしが買うわ。ほらこれ。

キンモクセイ。

さっき、一人でき二人、ほら、こうするとなきれいで。僕、キンモクセイになったみたいゆうてはる。

二人、少し笑った。