346話(2002年11月15日 ON AIR)
「靴」

作・

久野 那美

  
 

車の中 ドライブ中のカップル
外は渋滞 車の列・・・・・・・・

クラクションの音

  
・・・鳴らすなよなあ。誰も好きで止まってるわけじゃないんだから。

それにしても動かないよね。まあ、気持ちはわかるわ・・。

そう?よけいいらいらすると思うけど・・。。

・・・・・去年もこんなだったよね・・・。。

そうだっけ。

・・・・・・・・・・・・・・・覚えてる?

この道はいつもだよ。

・・・・・・・(黙っている)。

(ふと気づいて)・・・なんであそこにしたの?混むの分かってるのに。

はじめて会った場所だから。

・・・あ。

思い出した?

・・・もちろん・・・。そう、そうだった。うん。

せっかく誕生日のお祝いしてくれるっていうから・・。

去年の・・・いつだっけ?あれ・・・。

11月の末。

ああ。そうだった。寒かったなー。

雨降ってたしね。

うん・・・・・。

  
 

車はまだ動かない

  
それにしても動かないね。

たいくつ?

ううん。そんなこともないよ・・・お天気もいいし。

音楽もラジオも聴けない車なもんで・・・。

なんでスピーカーついてないの?

さあ。中古車だったから・・。

最初っからないの?

うん。

なんでそんな車を買ったの?・・・あ、別に文句言ってるんじゃなくて・・。

いや・・・・・・・・買ったわけじゃなくて・・・。

まあ。そのお陰であなたと知り合えたわけだけど・・・。

あのときはびっくりしたよな。

うん。・・・もう1年・・・・。

そっか・・・。(何か考えている)。

  
 

あいかわらず動かない 車の列

  
で?

え?

さっきの話。

さっきって・・・?

クラクションの前にあなたが・・・。

ああ。

あの話、続きはどうなるの?

どこまで話したっけ?

「拾った靴の中には・・・、彼の新しい人生に必要なものがひととおり入っていました。」

「男は決めました。中身がすべて、これからの人生に必要であるように誠実に生きていこうと。」

そうそう。そこなんだけど・・。何?誠実って?

「他人や仕事に対してまじめで真心がこもっていること」。

そうじゃなくて・・・そういうのって真心っていう?いい加減なんじゃないの?

なんで?

だって・・・人生に必要かどうかなんて、どうして最初に分かるのよ?

「・・そういう風に決めたからです。」

はあ?

「鶏が先か、卵が先か・・・実はどっちでも対してかわりはないのです。」

何それ?哲学?

「男は靴を拾ってしまった。中には道具が入っている。その靴はすでに男の人生に参加してしまった。彼の人生はその靴なしでは存在しない。」

おおげさだなあ。

大げさに言ってみた。

は?

要するに、どっちにしろ中身は使われるわけだよ。

うーん(納得行かない様子)。

だったら彼が必要なものをその都度買い求め靴の中に入れようが、靴の中に入ってるものを使ってできることを探そうが、結果的にはたいしてかわらないっていうこと。

そうかなあ。

そうなのです。

それって・・・誠実?

話しの内容に不満があるならもうやめる。

  
 

車はあいかわらず動かない

  
・・・・わかったわよ。・・・・それで?

靴の中には、いろんなものが入っていました。

どんなもの?

車の鍵、高速の割引券、傘、カメラ、CD、

  
 

男はふと黙り込む

  
それから・・・?

  
 

・・・・(思い出せない)。

  
靴の中には、あと、何があったの?

・・・・。

それでおしまい?

・・・・・・・・・まだ・・何かあったかなあ・・?いや・・・それでおわりだ・・。

で、最後はどうなるの?

だから、おしまい。

そうじゃなくて。その人の人生よ。そこでおしまいになるの?

人生は違うだろ。登場人物が全部死ぬまで終わらない話なんかあるか?

だって・・・それじゃあんまり尻切れトンボじゃないの?

そうかな。

そうよ。

そういう話なんだからしょうがないじゃん。

誰が創ったのか知らないけどさ、それじゃ読者が納得しないわよ。

そう・・・いや・・でもだな。。

なあんか。・・・どきどきして損しちゃった。

・・・。

誰が創ったの?

さあ・・・・・。(何か考えている)。

あ。ほら。

え?

動いた。前見て・・。

あ・・うん・・。

  
 

少し前進

  
女の声やがて。
彼はひとり女性と出会いました。
靴の中には・・・。
小さなトパーズのかけらがひとつ残っていました。
トパーズは「探す」という意味を名前に持つ宝石です。
でも、彼はまだそれを知らないようです。

使い道のわからない小石をひとつ靴に残して、物語はまだしばらく続きそうです・・・・・。

車はゆっくり走り始めた
途中で何度も止まりながら・・・