第351話 (2002/12/20 ON AIR)
「時計」 作/久野那美

年の暮れ おじいちゃんはたたみに新聞を広げて爪を切っていた
大学生の孫娘が押入れの中をごそごそ捜索している・・・おじいちゃんのおしいれには本やらアルバムやらいろんな者が詰まっていて楽しいのだ
やがて彼女は大きな箱の中から紙にくるまれた古い時計を取り出した
孫娘 あれ、おじいちゃん、これ何?
老人

ん?

孫娘

すっごいおしゃれな時計。

老人

オシャレ?

孫娘

こういうの欲しかったの。でもこういうレトロっぽいのって高いんだよね。

老人

レトロ?

孫娘

ねえ。動かないの?電池切れてんのかな?

孫娘 時計をひっくり返して調べている
老人 手を止めて彼女の持っている時計を見る しばらく見ている・・・
老人

その時計は電池では動かんよ。

孫娘

何で動くの?

老人 昔の時計はゼンマイで動くんだ。
孫娘 そっか。ネジまけばいいのね。(ネジを探している)。
老人

その時計はネジをまいても動かんよ。

孫娘

なんで?

老人

針と文字盤だけで中に部品がない。

孫娘

え?

老人

その・・・そっちの小さい方の箱とってごらん。

孫娘

え?・・・・・・・何これ重い・・・。

孫娘は箱を引きずり出してきた
中からはがちゃがちゃと鈍くて重い金属音がする

孫娘

(箱を開ける。中にはさび付いた部品が詰め込まれている。)え・・・?

老人

それが部品。

孫娘

なんで、時計を本体と中身にわけてしまってあるわけ?

老人

さあ。

孫娘

おじいちゃん!

老人 ばあさんにきいとくれ。わしにはわからん。
孫娘

・・・おばあちゃんの時計だったの?

老人 ・・・・・・・。
孫娘

あぁっっ!これって、もしかして・・あれ?昔ここの壁にかかってた、あの時計・・・・?

老人 覚えてるのか。
孫娘

うん。おばあちゃんがいつも見てた。

老人 ああ。
孫娘

一日中、針の動くの見てた。あたしが知ってるおばあちゃん、毎日おんなじ椅子に座って、じいっと黙って座ってて、・・・もうひとりで何もできなかったもんね。時計の方が生き物みたいだった。

老人 ばあさんはな、実は若い頃から時計が好きだった。
孫娘

え・・・そうなの?

老人 娘時代はたくさん持っとったぞ。自分で修理したり組み立てたりもできた。たいしたもんだった。
孫娘

何々?おばあちゃんの秘められた過去?

老人 別に秘密にはしとらんかったけどな。
孫娘

・・・・どーせあたしが知らなだけですよ。おばあちゃんのこと、あたし何も知らないもん。あたしが喋れるようになった頃にはおばあちゃんもう喋れなかったし・・。ほとんど動けなかったし・・。

老人 そうだな。
孫娘

それにしても、変わった趣味ね。

孫娘 しばらく何か考えている 老人は爪を切っている
孫娘

もしかして、これって、おばあちゃんのお嫁入り道具?

老人 いや。
孫娘

・・?

老人 嫁に来るとき、ばあさんは時計をひとつも持ってこなかった。
孫娘

そうなの?じゃあ、これは・・・・・。

老人

壊したのもばあさんだ。

孫娘 は?
老人

ねじまわし1本でばらばらにしちまった。目も指先も弱ってるのに見事なもんだった。

孫娘

・・・・昔取ったキネヅカっていうやつね。

老人

難しい言葉知ってるな。

孫娘

一応大学生ですから。

老人

おまえもおおきくなったなあ。

孫娘

いつまでも子供じゃないよ。

老人

そうか。

孫娘

でもどうして?おばあちゃん・・・中を見たかったのかな。

老人

さあ。

孫娘

修理したかったのかな?

老人

さあ・・・。ばあさんは、ばらばらにした時計を、もう組み立てようとはしなかった。

孫娘

・・・・。

老人

ばらばらに壊したまんま、逝ってしまった。

孫娘

・・・・・。

老人

だから、その時計は動かんのだ。

老人 切った爪を纏めてゴミ箱に捨てる

老人

さ、元の通りに包んどいてくれ。

孫娘なんだか困ってしまう・・・でもなんでだろう・・・

孫娘

・・・・・おじいちゃん、

老人

ん?

孫娘

壊したんじゃないよ。分解しただけだよ。

老人

・・・・。

孫娘

組み立てれば、きっとまた動くよ。

老人

これだけ錆びついてるんじゃ、とても無理だ。

孫娘

・・・・・・・。

孫娘 なんだか悲しくなる でもなんだろう・・
ぼーん
動かしたはずみに 本体の中の振り子が揺れて音が漏れる・・

孫娘

おじいちゃん。部品を取り替えよう。ぜんぶ、新しいのに取り替えよう。そしたら動くよ。そうしないから動かないんだよ。

老人

・・・・・。

孫娘

部品を新しいのに替えて、壊れたところ修理してもらって、また、おじいちゃんの部屋に飾ろう。

孫娘 なんだか一生懸命になる なんでなのかわからないけど 

老人

こんな古い時計を修理して飾らんでも、新しいのを買えばいいだろう。

孫娘

何言ってんの?すっごいおしゃれじゃん。こんなのなかなか売ってないよ。

老人

・・・・。

孫娘

ほんとはあたしの部屋に飾りたいけど、こっちの壁のほうが似合うから・・。

老人

そんなに気に入ったんなら、嫁に行くとき持っていけばいい。

孫娘

いらないよ。(憮然として)

老人

・・・・。

孫娘

そのときは・・・・・・・・・・・・・新しいのを買うんだから。

*****

孫娘

結局、時計は修理に出されることになった。戻ってきてからは、昔のようにチクタク音を立てておじいちゃんの部屋の時間を刻んでいる。
あれから5年経った。
今では動けなくなってしまったおじいちゃんが おんなじ椅子にすわって毎日毎日針の動くのを見ている・・・・・、
この頃少しずつ言葉を覚え始めた娘を連れて、私はときどき、おじいちゃんと時計に会いに来る。

チクタクチクタク ボーン ボーン
時計の針は動いている