第354話 (2003/1/10 ON AIR)
「雪の日」 作/深津篤史

バス止まったらええのに。

え。

雪。

じきに止むやろ。

バス止まったらええのに。

田舎やないねんから。

どうしても行かんとあかん。

どうしてもて。

今さら言われても。

うん。

実感わかへん。
うん。

お兄ちゃんは何年ぶり。。

六つの時やから、ああ、もう三十年近くなる人か。

三十年。

お互いええ年になったな。

そんな話してるんとちがう。

お前、まだ4つやったんやな。

うん。

顔、覚えてるか。

ぼんやり。

へえ。

ぼんやりや。

うん。

お母さんも何で今さら。

けどな。

わかってる。

うん。

病院きらいやねん。

うん。

おばあちゃん死んだ時も。

ああ。

病院のろうか歩くやろ。どの部屋もふだはってある。面会謝絶、面会謝絶。

うん。

おばあちゃんの部屋も面会謝絶。

うん。

息止めて歩いた。

うん。

何かいややねん。

いやって。

いややねん。

悲しい気持ちになるんか?

うん、くやしい。

くやしい、か。

お父さんの事、うらんどるとかやないねん。

ああ。

小さい頃の事やし、別にひどい事されたとも思ってないし。

うん。

ある日突然おらんようになっただけやし。

次の日曜には帰ってくる思てた。

うん。

全然ドラマチックやなかったもんな。

今さら。

うん。

今さらドラマチックになってる自分がいややねん。

そやな。

きっと悲しくなる。

うん。

泣いてしまうかもしらん。

うん。

ちょっとやさしく笑ってしまうかもしらん。

うん。

お兄ちゃんは顔覚えてる?

ぼんやりやな。

ぼんやりか。

こう、なんや、止まってるな。

止まってる。

うん、写真みたい。

ああ。

ちょっと動かすとな、おじさんの顔になる。

へえ。

で、元に戻そうとするとぼやける。

うちは。

え。

今がんばるってこと。

ああ。

あかん。まゆげしかでてこうへん。

こわかったからな。

その下は。

おじさんの顔か。

お兄ちゃんの顔。

何か。

いやか。

何やろ、いやなんかな。

どうなん。

わからんな。いやかもしれんけど。

何。

それは何やろ、後からくっついたみたいな、くっつけたみたいな。

うん。

ぼんやりしてる。

ぼんやりか。

たぶん。

何。

いや。

うちも同じこと考えてた。たぶん。

何。

帰りのバスの中、やっぱりぼんやりしてるんやろなって、ちがう?

男、少し笑った。

雪やんでもた。

ああ。

つもらへんな。

ああ、つもらへん。

うん。