363話(2003年3月14日 ON AIR)
「モヒカン」

作・

上田誠(ヨーロッパ企画)

  
 

アパートの部屋
安いドライヤーの音
遠くでドアが開く音

  
(遠い声)ただいまー。

おー。

  
 

ドライヤーの音 止まる

  
(ドアを閉めて)はあー。

ちょっとさあ、これ手伝ってくんない?

またー?

どうもうまく立たなくてさあ。

  
 

女 男のところ(鏡台)まで来る

  
(笑って)ホントだ。右に歪んでる。

とりあえずお前さあ、手でこうやって、まっすぐ狭んどいて。

・・・・・こう?

うん。キープしといて、そのまま。

・・・・・・モヒカンも大変だねー。

  
 

ドライヤーの「ブワーン」という音、何回か。

  
離して。

・・・・・・いいじゃん。

・・・・・・いや、まだ微妙に、傾いてない?

嘘。

こう・・・・・・ほら。

・・・・あー。

ちょっと、もうちょいムースつけるわ。

寝癖かなあ。

  
 

ヘアムースを出す「シュー」という音
ムースをペタペタつける音

  
・・・・・・今日のライブ何時から?

俺らの出番は、8時ごろかな。

8時か・・・・・・。

お前、来れんの?

何で?

夜勤明けだろ。

ああ、大丈夫。昨日も結構寝たし。・・・・・・またこれ狭めばいいの?

うん。真っ直ぐな。

うわ、べったべた。

いい?

  
 

ドライヤーの音

  
・・・・・・(止めて)これちょっと風弱いな。

もうちょといいの買わなきゃねー。

  
 

ドライヤーの音 さらに何回か

  
・・・・・・どう?

・・・・・・これやっぱ1回洗うわ。

なんで。出来てんじゃん。

いやだから、今は出来てても、時間経つとこう、だんだんまた傾いてくるから。

ああ・・・・・・・・。

ちょっと、濡らしてくる。

  
 

男がイスから立ちあがる音

  
逆からドライヤー当ててみれば?

(遠くから)いやもう、それすると収集がつかなくなるから。

ああ・・・・・・。

(遠くから)ドライヤーはもう、上へ上へってのが基本だから。

  
 

遠くで水道の音

  
・・・・・・竹内君、どうなったの?

(遠くで洗いながら)駄目。

そっか・・・・・・。

  
 

水道の音止まる
(遠くで)今日がだから、あいつのラストステージ。

  
新しい人、見つかりそう?

(近付いてきて)ドラムなー、いいのいないからなー。

  
 

男イスに座る音

  
私やってもいいよ。

お前だって、音痴だろうが。

関係ないじゃん。ドラムなんだから。

いいからムース貸せよ。

  
 

ムースを出すが途中でブシュッという音

  
あれ?

  
 

ブシュッという音

  
出ないの?

  
 

ムースを振り出すもプシュッという音

  
やべえ、なくなっちゃった。ちょっとごめん、買ってきて。

私?

俺だって、こんな頭でいけないだろ。

っていうか、お金、ないよ?

は?

だって、あさって給料日だもん。

ないの?

うん。

え、何じゃあ、一銭も?

いや、一銭もってことないけど、いまムースとか買ったら、ちょっとキツイ・・・・・・。

マジで?

うん。

・・・・・・やっべー。そっか、俺バイトクビになったから・・・・・・。

いいじゃん。今ほら、こんだけ手にあるんだからさあ、これで何とか、

いや、無理だろこんだけじゃ。

大丈夫だって。ほら、付けてみて

  
 

ムースをつける音

  
・・・・・いや、明らかにこれムース少ないだろ。

これを、こうやって、なじませて・・・・・・。

もうほら、明らかに後頭部のとことか足りてないし・・・・・・。

で、何だっけ。ドライヤー。

いやだから、ちょっと待てよお前。

しょうがないでしょ。何とかモヒカン立たせないと。ステージ立てないよ?ほら。

  
 

ドライヤーの音

  
だから立たねえって。風弱いし。ちょっとやめろよ。

ほら、だんだん出来てきた。

出来てねえよ。

なんでよ、ほら、立ってるじゃん。モヒカン。

だから立たねえよ!

  
 

ドライヤーの止む音

  
・・・・・・どうしたの?

・・・・・・立たねえよ。・・・・・・もういい。行かねえ。

は?

今日、休むわ。

(驚いて)休むって、モヒカン立たないから?

モヒカン立たねえし・・・・・・他の色んなもんも、立たねえし。

・・・・・・何よ、それ。

っていうかさあ、・・・・・・俺やめるわ。ノーフューチャズ。・・・・・・っていうか音楽。・・・・・・ずっと考えてたんだけど。・・・・・・ちょっとあの。ダサすぎるわこれじゃ。・・・・・・俺だからもう、働く。竹内みたいに。決めた。・・・・・・どうこれ。

モヒカンは?

え?

寝かせるんだ。

いや、まあ・・・・・・。

ダッサイ。ダサすぎ。何それ。モヒカン寝かせて、それで食べて行くんだ。ダッサイ。びっくりダサい。

っていうか、今のこのモヒカンの方がダサくない?

ううん、ダサくない。モヒカン寝かせてる方がよっぽどダサい。っていうかもうそれ、モヒカンじゃなくて、なんか変な髪形。・・・・・・馬鹿にしないでよ。私は、モヒカンを立ててるあんたに惚れたんだよ。

・・・・・・端穂・・・・・・。

・・・・・・立てようよ。いいじゃん。他の物が色々立たなくても、モヒカン、立てて行こうよ。

・・・・・・モヒカン、風受けるぞー。

いいよ。受けても、倒れたら、また立てて。立てられるじゃん、2人なら。・・・・・・(思いついて)ピーナッツバター。

ピーナッツバター?

(取りに行って)ほら、毎朝あたし達が食べてる、これ。

それで立てるのかよ!

うん。ほら、見た目もポマードみたいだし。

いや、これ、溶けるだろ。

いいから。

  
 

ピーナッツバターをつける音

  
ダサくても、モヒカン、立てなきゃ。・・・・・・どう?

・・・・・・(意外と良くて)おお。

押さえてて。

  
 

ドライヤーの音

  
・・・・・・下から、上に。

  
 

ドライヤーの音がギターの轟音に変わっていく 曲が終わり客席の歓声

  
(マイクで)どうもこんにちは。ノー、フューチャーズでーす!

歓声に女の声も混じっている

(まくしたてる)今日はドラム・ヒロキのラストステージということで、張り切っていきましょう!2曲目。就職なんかしてんじゃねえよヒロキ!カモン!

  
 

歓声と4カウント
轟音のパンク