第369話(2003年4月25日 ON AIR)
「石鹸」
作/上田 誠
※「」内のセリフは、壁の向こうに大声で言ってるセリフです。
※大声のセリフほど、エコーがかかります。

銭湯。
エコー付のガヤと、フロオケの音。

あ。・・・・・「カナコー。」
「ハーイ。」
「石鹸忘れちゃったんだよー。悪いけどさー、投げてくんない?」
「行くよー。」
あ、ちょっ!

ポチャッという音。
男達のざわめき。


(焦って、人に謝る)すいません。
「取れたー?」
「バカお前、どこ投げてんだよ!人に当たりそうになったよ!」大丈夫ですか?当たってないですか?
「すいませーん。」
「すいませんじゃねえよ!壁越しに謝んなよバカ!」ごめんなさい。本当もう、どうしようもない……
「バカって何よ!あんたが投げろって言ったんじゃないよ!」
(戸惑いつつ)「言ったけど、だから計算して投げろっての!」
「分かんないよ、あんたの位置なんて!」
「分かんないって、声で分かるだろ!もういいよ!」
「よくないよ!こっちは女湯のみんなが聞いてんだから!」
「こっちだって男全員聞いてるよ!だから恥ずかしいからもうやめろ!」
「あんたが悪いんじゃないよー!」
「だから、お前の投げ方が悪いんだよ!大体分かるだろ!銭湯なんて大体左右対称になってんのに、湯船に投げるヤツがどこにいるんだよ!」

しかし、響いて聞き取りにくい。


「……何?聞き取れない!」
「(ゆっくり)銭湯なんて、大体左右対称になってんのに、湯船に投げるヤツが、どこにいるんだよ!」

「……もういい!」
「え?」
「あんた、面倒くさい!」

女達の笑い声。

「おい!何で笑ってんだよ!」
「甲斐性なしうるさい!」

女達の、さらに大きな笑い声。

「味方につけんなよ他の女を! じゃあ、言わせてもらうけどな、何でお前らは、そうやってすぐ感情的になるんだよ!もっと理性で考えろ!」

男達の歓声と拍手。

(男達に)ありがとうございます!どうもです。
「男の、その自信はなんなのよ!弱いくせに!」

女達の歓声と拍手。

「女はなあ、もっと女らしくしろ!」
「男がしっかりしなさいよ!」
「女はなあ、女は……」

鳴り止まない、拍手と歓声。


帰りの夜道。
2つの足音。

……ごめんね。
いやいや、俺がもう。
(笑って)なんかえらいことになってたね。
男と女の代表みたいになってたからな。
……ま。

2人の声、遠ざかっていく。

やっぱ内風呂だな。
あした一緒に入ろっか。
(照れて)え?

:
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野良犬の鳴き声。
END。
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