第372話(2003年5月16日 ON AIR)
「実家への挨拶」
作/ごまのはえ
 
実家への挨拶
場所は女の実家がある町の駅前
今日は男が女の実家に挨拶に行く日
二人は女のお父さんのジープに乗っている
女が駅前までそれに乗って迎えにきているのだ
以下はそのジープの車中での会話である

どれくらいかかるの。
三十分くらい。
結構人多いやん。
駅前だけやってそのうち田んぼばっかりになるから。
ふーん。すごいなジープかよ。
ウチのお父さんジープとかすきやから。
緊張してきたー。
ハンニャシンキョウそこにあるよ。
え?なにそれ?
短いお経。ウチのお父さんいつもそれで精神統一するから。
へー。え、それを唱えるの。
うん。よく唱えてる。
なにこの袋?
サンドバック。そこに砂詰めて木につるして殴るねん。
え?誰が?
お父さん。そこら辺にさらしない。
さらしってこれかな・・・うわ!血が付いてる!
それをこぶしに巻くねん。・・・ほらだんだん人おらんようになってきたやろ。

女は車の速度をあげる

ちょっとスピード出しすぎちゃうか。
大丈夫。・・・ちゃんと挨拶してよ。

お父さんってもう定年退職してはるねんな。
うん。でもあんたみたいにおなか出てないで。
そんなこと聞いてへんわ。
あんた差し歯あったっけ?
なんの話やねん。
なんでもない。

また少しスピードが上がる

ホンマに人おらんようになってきたな
めがねはずしときや。病院まで四十分ぐらいかかるから。
ちょっと待て、なんで俺が殴られなあかんねん。
ウチのお父さん口下手なの。
そんなん理由になるかよ。
いいやん。もれなく私がもらえるねんで、ちょっとぐらい殴られてよ。
お前、日本語おかしいぞ。

スピードがまた上がる

スピード出しすぎ。
狸しかおらへん。
狸大事
なんか私興奮してきた。私めっちゃ泣くから、あんた私のために殴られてな。
落ち着けその興奮に前向きな要素はなにもないぞ。言っとくけど俺は自分の親にも殴られたことないんやからな。
関係あるかい。

またスピードがあがる。

だからスピード出しすぎ!
狸しかおらへん!
狸大事!俺も大事!
安心せい!大事にしたるがなー!

そういいながら女はさらにスピードが上げる

お母さーん!

男は女の実家に向かう。まるで連れ去られるように・・・
                                                   了
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