第378話(2003年6月27日 ON AIR)
「トマトの味」
作/大正まろん
 


気がついた?
あれ・・・姉ちゃん。
麦茶飲む?
俺・・・。
起き上がれる?
ああ、うん。

女、麦茶を入れる。

あん時夢中で草抜いてて・・・
トシオさんが軽トラにのっけてあんた運んでくれたのよ。
俺、倒れちゃったんだ。
日射病だよ、日射病。暑いから休み休みやりなって言ったでしょ。
(麦茶を一気に飲み干し)うまい。
手間のかからない弟をもってお姉ちゃんは幸せだ。
嫌味言うなよ、俺一生懸命やってたんだよ。
一生懸命はいいんだけど・・・。
トシオさんは?
畑に戻った。
じゃ俺も働いてくるか。
昼御飯まだでしょ。食べてからにしなよ。
だって今日中にあの畑の雑草、完璧に制覇したいからさ。
制覇って・・・草は抜いても抜いても生えてくるんだから。
何それ。
自分のペースでやればいいって事。
これが俺のペースだよ。大体、手伝いに来いって言ったのは姉ちゃんでしょ。

ほんとにもう・・・わかってないんだからあんたは。
何がわかってないんだよ。
だから・・・ミキちゃんと何かあったの?
何って?
最近来ないから。
あいつ・・・実家に帰ってる。
何したのあんた。
別になんにも。
   
食卓にトマトと手紙が置いてあってさ・・・。
うん。
「もっと人間らしい生活がしたい」って。訳わかんないよ。
ふーん。
ふーんって、ミキ、時々ここに来てたんだろ。何か言ってなかった?
別に。楽しそうに作業手伝ってくれてたよ。
そう。
トマト、食べてみた?
え?
だから、ミキちゃんが置いてったトマト、食べてみた?
うん、普通のトマトだったよ。
普通かぁ・・・気がつかなかったんだ。
何。
多分、それミキちゃんが作ったトマトだよ。
そんな事あいつ一言も・・・。
気づいて欲しかったんでしょ。
そういえばさ。
うん。
いつだっけかな。嬉しそうに、俺がトマト食うのをあいつじっと見てた。
そっかあんた味音痴だからわかんなかったんだね。
違うって。ゆっくり飯なんか味わってる暇なんかないんだもん。残業、残業でさ疲れ切って毎日帰って寝るだけの生活だよ。でもそれだってあいつの為だって思って・・・。
(遮って)そりゃお金を稼ぐことも大事だけどさ、わかってあげなよトマトの味くらいさ。



・・・俺、行くわ。
どこに。
畑。
だからご飯食べてからに・・・。
トマト、食ってみる。あいつの作ったトマト。
そう。・・・ああほら、帽子忘れてる、帽子。
はいはい。いってきます!
しっかりしろよ・・・(小さい声で)お父さん。
え?
ううん。また倒れないでよ。
わかってるって。
わかんのかねーあいつに・・・。

                                                 終わってまた始まる


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