第383話(2003年8月1日 ON AIR)
「モノクローム」
作/大正まろん
 
まさる(夫)
きみえ(妻)
すずこ(娘)


きみえ あら、まあこんな所で寝ちゃって。まさるさん、まさるさんてば。
まさる きみえ・・・。

風鈴の音。

きみえ 何よマジマジ見たりして。私の顔に何か付いてますか?
まさる いや。ええと、すずこは?
きみえ すずなら、彼氏を駅まで送って行くってさっきほら、
まさる ああ、そうだった。
きみえ ・・・どうしても反対なの?
まさる すずこはまだ二十四だろ。何もそんな急がなくても。
きみえ あら、私があなたと結婚したのは二十歳の時だったわ。
まさる いや、それは・・・。
きみえ あなたは貧乏カメラマン、おまけに私のお腹にはすずがいて。
まさる あの時の親父さん、死ぬほど怖かったな。
きみえ どうしても結婚許してくれなくて、家飛び出してあなたのアパートに転がりこんだ。
まさる 何年もあんな狭い所でよく暮らしてたもんだ。
きみえ そのあなたが反対するなんて。
まさる だから・・・。
きみえ やっぱり自分の娘となると違うのね。
まさる 役者なんて、売れない写真家ぐらい苦労するよ。
きみえ 苦労って?
まさる 水道止められて、公園まで水を汲みに行ったりさ。

きみえ

公園で半分こしたソフトクリーム、美味しかったな。
まさる 作品の出展料がなくて、おまえのハンドバッグ持って質屋に行った時はホント情けなかった。
きみえ いいのよあんなバッグ。
まさる それに・・・、
まさる いや。
きみえ あなたには内緒にしてたんだけどね。
まさる なんだよ。
きみえ あの頃ね、時々母さんがこっそり助けてくれたの。仕送りしてくれたり、野菜送ってくれたりね。
まさる そう。
きみえ もしすずが家飛び出しても私はそんな事やってあげられないから。
まさる きみえ。
きみえ 信じてあげて。私の娘だもの、見る目は確かだって。
まさる 確かなもんか。俺はお前になんにもしてやれなかったじゃないか。
きみえ 何言ってるの。あなたと出会ってすずが生まれて、私幸せだったわ。人生の美味しいとこだけ味わっちゃった気がする・・・。ごめんね。
まさる 何謝ってんだよ。
きみえ すずの事、頼んだわよ。
まさる きみえ

風鈴の音。

まさる ・・・すずこか。おかえり。
すずこ ・・・。
まさる すずこ、ほらこっち来て座れ。
すずこ 何・・・どうしたのよ母さんの写真なんか引っ張りだして。
まさる なんとなくな。
すずこ ふーん。
まさる 今度の休みに、墓参りするか。
すずこ でもお盆にはまだ早いよ。
まさる 母さんに報告しに行かないとな、すずこが結婚するって。
すずこ お父さん・・・。
                                         終わって、また始まる

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