384話(2003年8月8日 ON AIR)
「コンタクトレンズ」
作/上田 誠
 
眼科。
初めてコンタクトを作った男、女性スタッフに付き添われ、はめる練習をしている。


じゃあ、ちょっとやってみてください。
ああ、いきなりですか?
ええ。指にそう、レンズを乗せてもらって。……。
ああ……。
ええ。表裏あってます?(確認して)いいですね。
(戸惑って)これはもう、いきなり行っちゃっていいんですか?
ええ。そーっと目に近づける感じで。
ああ……え、こうですか?
そうそうそう。そのまま……?

男、コンタクトを目に近づける。

……(やめて)これちょっと怖いですねえ。

2人、笑う。

まあ、最初は。
この、目ってのが怖いんですよねえ。
あー、まあ、慣れれば。
この目になんか異物を入れる感じが。
ええ。慣れれば。全然大丈夫ですから。
ああ……。
やっぱりね。練習しないと。

男、仕切りなおす。

……痛くはないんですよね?
全然、もうなんか、吸い付いて来る感じですね。
ああ、眼球に。
ええ。
じゃあ、結構向こうから来る感じだ。
ええ、すーって。
あー。

男、呼吸を整える。

視界がもうすごい、開けますから。

間。

……(やめて)いややっぱこれ怖いですよ。
大丈夫ですよ。
この「目に触る」ってのがおっかないんですよ。
皆さんやってますから。
これ誰が考えたんですかねえ。
あー。
これ凄くないですか?最初につけた奴。あのナマコ食べた奴なんかよりよっぽど凄いですよ。
うーん……。
(笑って)狂気の沙汰だなあ。
今は、もうほら。お子さんでも、されてますから。
(仕切りなおして)よし。

男、再びつける準備をする。

……これちょっとやってもらえません?
私がですか?
ええ、僕の目にちょっと。
お客さんにですか!?
ええ。
いや、だって、怖くないですか?
え?……ああ、そっか。(笑って)本当だ。怖いですよねえ。
ええ……。
自分でやるよりよっぽど怖いわ。ああ、すいません。僕がやります。
だから、なんか意識しすぎてるからダメなんですよ。
そうなんですよ。
ええ、こう、リラックスして。
リラックス。
こう、いいイメージを思い浮かべて。
(イメージして)こう、新しい世界がパーっと広がると。
ええ。
その、ファーストコンタクトだ。まさに、新世界との。
そうですよ。
(イメージが沸いて)あー。……うんうん

男、仕切りなおす。

……しみたりはしないんですね?
ええ。
……そのなんか、目の裏にぐるっと回ったりとか……。
大丈夫ですから。ほら。

男、コンタクトを目に近づける。

……こうですよね?……
ええ。……いいですよ……。
こんな感じですか?こんな感じですか?
ええ。もうちょっと。
(パニクって)これ吸い付かないですよ?吸い付かないですよ?
いや、まだです。もうちょっと……。
これだってもう、目の中はいっちゃってますもん。
いや、だから、もっと行かないと……。
全然ちょっと、吸い付かない、ちょっ、ダメだ!(限界が来てやめる)
え!?
これ全然吸い付かないですよ!
いやだって、まだ全然。
僕ものすごい触ってるのに、全然、つかないんだもん。
いやだからその、主観的には触ってたかもしれないですけど、
いやー……。
あとだって、3センチぐらいありましたよ?
3センチ!?
ええ。
今のでですか?
結構、遠かったですよ。
……まだ行けるのか……。
(提案して)あの、例えばなんですけど、お客さんメガネとかって……。
いやいやいや、それは。もう、もう行けます。
ああ……。
今ので大体距離感つかめましたから。ちょっと、ナビゲートしてくださいよ。
ええ。

男、準備をする。

あとじゃあだから、イメージです。
イメージ。
ええ、こう、新しい世界の、イメージ。
(気持ちを作って)よし。……(手元が)ビチャビチャになっちゃった……。

男、三たびチャレンジ。

……こうですよね。
ええ。
ここまではいいんですよね。
あと5センチ。
こうで、これここでまだいけるんですよね。
そうそう。あと3センチ。
(小声で)受け入れる……俺はお前を受け入れる。
いいですよ、もうちょっと。1センチ!
来い!来い!吸い付いて来い!
来ました!
(急にパニクって)来た、え、どう?いいんですか?これ、ついてるんですか?
まばたき、まばたき。……ええ。
(まばたきしながら)ど、え……?……(感動して)おおぉ。

新しい世界。

                                                 END

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