394話(2003年10月17日 ON AIR)

「TEARS」

作・中埜由美(劇団天悟)
居酒屋のどよめき。
「父」のまわりに漂う静寂。
一人カウンターで酒(熱燗)を飲んでいる父。
誰かが隣に座っていた後。
娘、居酒屋に入ってくる。
まだいたんだ。
…。
正チャン帰った?
ああ…。
…なんて?なんて言ってた?
いっぱい、飲むか。
二人、酒をつぎあい、飲む。
二人
…。
それで?
何が?
だから、正チャン。
別に、普通だよ。
何よそれ。
普通は普通なんだよ。
反対なの?
いいや。
ふふふ。
何がおかしいんだ。
だって…。
二人
(笑う)
しかしおまえが正チャンと結婚なあ。
…だめ?
いや。
お父さん、どんな顔するかなって思ってた。
なんで。
だって相手が正チャンだから。
…。
びっくりした?
いや。あいつも…、あいつも立派になったな。あいつも、お前も、もう27か。
そうよ。
俺も年を取るはずだな。
ふふ。
子供の時はお前の後ろにくっついてびーびー泣いてたのになあ…。いつだったか向こうの家族とこっちの家族とみんなで遊園地に行って、お前達二人が迷子になって、どこを捜しても見つからない。やっと見つけたとき正チャンはわんわん泣いてて、でもお前はむすっと正チャンの手をつないで立ってた。
そんなことあったっけ。
おまえは負けん気が強くて勝ち気で、どんなことがあっても絶対泣かない子供で…、中学の時だったかなあ、お前達二人が紅組と白組の応援団長やってたのは。
うん。今から思えばたかが中学校の体育祭なのにすごい張り合ってた。
結局お前の組が負けて、他の子は皆泣いてたけどお前一人、やっぱり泣いてなくて。
そうだった。…ね、お父さん。私ね、きっと泣きたかったんだと思う。ホントは他の子みたいに泣きたかったんだと思う。でもなんか泣けなかった。泣いちゃいけないような気がしてた。
うん。
でもね、去年お母さんが亡くなってお葬式も何もかも終わったときね、私、正チャンの前で大泣きしたの。初めて人前でわんわん泣いて、気持ちよかった。
うん。
正チャンだったから泣けたんだと思う。だから。決めたの。
そうか…。
なんかこんな話するの、恥ずかしいね。
ん?そうか?…そうだな。
二人
…。
お父さん。
…。
私、結婚、します。
ん?ああ。おめでとう。
…ありがとう。
娘、鼻をすする。
居酒屋のどよめき。