401話(2003年12月05日 ON AIR)

「アクセル or ブレーキ」

作・樋口美友喜
ズゥンズゥン、カーステレオのひびく重低音。
運転席の男は鼻歌まじり。
♪♪♪♪♪♪♪
一瞬鼻歌がピタリとやんだかと思うと息をのむ。
と同時に思いきりブレーキをふんだ
キキキキー。
っっっはあ…はあぁ、あせった…
ピピーピピピピと軽カイにフエの音
え?
はーい。オーライ、オーライ、よせて。よせて。
ドアから顔を出して男は叫ぶ
ちょっと!あんた飛び出したらあぶないだろ。何考えて…
ピピピピピ!はい言い訳しない、はぐらかさない、ウソつかない。ハーッお願いします。
はっ!?
飲酒検問です。
はぁ?検問つったってあんた…
急に電子メロディ音で流れ出す「飲んでー飲んでー飲まれてー、飲んでー」(酒とタバコと男と女?かな)
ほら、ひっかかった。どのくらい飲んだの?
飲んでない。
ちゃんとお酒探知機が反応してるじゃない。
反応してるのはあんたの息でしょ。何で検問してる方が飲んでんの?って、顔ちかづけんなって、酒くさ…。
私の勝手よ。
勤務中だろうが。
飲酒運転じゃないからいいの。ちゃんと地に足ついてんの。
フラついてるし。
うっさい。ばっきん30万円。
なんで?ていうかあんたどう見てもケーサツじゃないでしょう。どうしてケーサツでもない人から、こんな所で足どめ食らわなきゃなんないんだよ。
それが何?足どめ食らうのはね、いつもケーサツだけってわけじゃないのよ。
じゃ、これ何のための足どめ?
私のための足どめ!
…は…?
誰でもいいから聞いてほしいのよ。
え?、あの…
何て言うの?この心の内ってやつ?いわゆる悩み?
友だちに…話しゃいいんじゃないんですか…
それじゃイミないのよ。見ず知らずの他人じゃないと。
だからなんで?
友だちじゃ、心さらけだせないじゃない。
あんたそれ本当に友だちか!?
そういう時もあるでしょ?
じゃネットででもつながったら。
声に出して言わなきゃスッキリしないの!
それじゃ旅に出たら?
たび…?ふん。
あ…何?
あんた旅に出りゃ何か変わるとか思ってんの?
一般論で、申し訳ないですが…ていうかそれよりこの状況申し訳ないって思ってる?僕に対して。
一般論じゃなくて、あんたはどうよ?今出会ってるのは他の一般の誰か、じゃなくて見ず知らずの私とあんたでしょう?
旅に出て…?
そう。
何かかわる?
そう。
そりゃいつもと違うことをしなきゃいけない状況になるから…
かわったってサッカクするだけ?
何もしないよりマシでしょ。
した方が…?
一般論…だけど。
だからやってみてるじゃない。見ず知らずの人ひっつかまえて、のまないお酒のんで、いつも口の中でモゴモゴしてる言葉はきだして、いつもやらないことやってみてんじゃない。
それで、何かかわりました?
え…?
男、車のキーをぐるんと回した
エンジンがかかる
車がブルンと身ぶるいしたように
のる?
え!?
こっちの方向だけど。
でも、ねえ、そう、ね。それで、何かかわるかしら…?
アクセルをふむ
車はゆっくりと進んでやがてカーブを曲がる
ズゥンズゥンひびく重低音
シンと静まった車内
車は足どめをくらった場所から
ずいぶん離れていく。
あの女が、車にのりこんだのか、
まだあの場所で別の誰かをひっつかんでいるのか、
それは、あの女と男にしかわからないだろう。
おしまい