420話(2004年04月16日 ON AIR)

「3分大河ドラマ『いざ出席!』」

作・早川康介(劇団ガバメンツ)
山河流陣太鼓が打ち鳴らされる。
大石
「敵(かたき)は本所、きゅら、(すぐに言い直し)吉良邸にあり!」
りく
「内蔵助様、大丈夫ですか」
大石
「緊張してきた。四十六人を前に敵の名前は間違えられん。」
りく
「もう討ち入るので?」
大石
「お前が待てと言うから待ったのだ。これ以上は待てん」
りく
「お腹の子は」
大石
「りく、お前も武士の妻。覚悟はしておったはずだ。…行ってくる」
りく
「お気をつけて」
大石
「お気をつけようがない」
りく
「はい」
大石
「行ってくる」
りく
「行ってらっしゃいませ」
大石
「いざ!しゅちゅじん」
りく
「あの!」
大石
「なんだ」
りく
「本当に四十六人も集まるのでしょうか」
大石
「何を言っておる」
りく
「一応、討ち入る前には出席をとられたほうがいいかと」
大石
「四十六人もおるのだぞ」
りく
「まさか名前を覚えておられないので」
大石
「馬鹿を言うな。命運を共にする同士だ」
りく
「言ってみてください」
大石
「えっ、名簿があるから」
りく
「そんなもの読み上げるなど、武士のすることではありません。さあ」
大石
「(りくに反論できず)原宗右衛門元辰(はらそうえもんもととき)」
りく
「はい」
これ以降、りくの返事は全てその者に扮して。
大石
「なんだ」
りく
「返事がなければ欠席です」
大石
「吉田忠左衛門兼亮(よしだちゅうざえもんかねすけ)」
りく
「はい」
大石
「片岡源五右衛門高房(かたおかげんごえもんたかふさ)」
りく
「はい」
大石
「えっと…」
りく
「やはりお忘れで」
大石
「堀部弥兵衛(ほりべやへえ)」
りく
「それだけ?」
大石
「いつも弥兵衛って呼んでるから」
りく
「それだけ?」
大石
「まだ名前があるのか」
りく
「はい」
大石
「堀部弥兵衛…三郎」
りく
「適当に言わない」
大石
「思い出した、堀部弥兵衛金丸(ほりべやへえかなまる)」
りく
「はい」
大石
「間瀬久太夫正明(ませきゅうだゆうまさあき)」
りく
「それだけ?」
大石
「間瀬久太夫正明三郎」
りく
「正明でいいんです。適当に付け加えない。しかもまた三郎」
大石
「不安だったんだ」
りく
「まだ四十一人残っていますよ」
大石
「もう行かないと、時間が」
りく
「まだ四十一人残ってます!」
大石
「…堀部安兵衛武庸(ほりべやすべえたけつね)」
りく
「はい」
大石は矢継ぎ早に名を呼んでいく。
大石
「大高源五忠雄(おおたかげんごただお)」
りく
「はい」
大石
「吉田沢右衛門兼貞(よしださわえもんかねさだ)」
りく
「はい」
大石
「杉野十平次次房(すぎのじゅうへいじつつぎふさ)」
りく
「はい」
大石
「大石瀬左衛門信清(おおいしせざえもんのぶきよ)」
りく
「はい。あっ、ちょっと待ってください。今安兵衛と同じ声でした」
大石
「どうでもよいだろう」
りく
「命運を共にする同士の声がどうでもいいと。さ、もう一回」
大石
「大石瀬左衛門信清」
りく
「はい」
大石
「赤植源蔵重賢(あかばねげんぞうしげかた)」
りく
「はい」
大石
「不和数衛門正種(ふわかずえもんまさたね)」
りく
「はい」
りくの返事は段々と涙声に。
大石
「倉橋伝助武幸(くらはしでんすけたけゆき)」
りく
「はい」
大石
「矢頭右衛門七教兼(やとうえもんしちのりかね)」
りく
「はい」
大石
「大石主税良金(おおいしちからよしかね)」
りく
「はい」
大石
「りく、もうよい。ありがとう」
りく
「私は」
大石
「背中を押したり足を引っ張ったり。武士の妻は大変だな」
りく
「はい」
大石
「行ってくる。敵は本所、きゅら邸にあり」
りく
「まだ、練習が要りますね」
大石
「吉良上野介義央(きらこうずけのすけよしひさ)。みな名前が長過ぎる。この子にはもっと短い名前がいいな。大三郎でどうだ」
りく
「また、三郎…」
大石
「いざ、山陣!!」
山河流陣太鼓が打ち鳴らされる。
りく
「(四十六人いるかのごとく)おーっ!」
大石
「だからもういいって」
おしまい