430話(2004年06月25日 ON AIR)
「かわたれ時の誓い」
作/大正まろん
 
  朝と夜のはざま。まだ世界は青色に満たされている。山の裾に広がる田畑、寄り添うように建つ家々。残り少ない夜を惜しむように、カエルや虫たちが存在を主張する。鳥の目覚めまであと少しだ。男は縁側であぐらをかき、空を見上げている。
タイチ、なの?
ん、ああ、おはよ。
そこで何してるの?
気持ちいいな縁側って。日なたぼっこもいいけど、こうやって明けてく空を眺めるのもオツだよね。
なによー、ジジムサイ事言っちゃって。
ね、こんな時間を何ていうか知ってる?
夜明け前。
ま、そうとも言う。
サンライズ。
ブー。
何。
かわたれどき。
カバたれ土器。
カバが垂れてどうすんだよ。
カバもオネムで土器みたいに動かない、とか。
はいはい。
もう、何よ、いったい。
彼誰時(かわたれどき)、まだ薄暗くて顔もよく見えない時間、そこに居るキミは誰?って意味かな。
かわ、
あなたは、
たれ
誰?
ふーん。
夕方の事を「たそがれ」って言うでしょ。
うん。
それも同じ、タソ、誰なの。カレ、あんたはって事。
ヘーヘー。
はいはいごめんね、朝からウンチク垂れました。
でもちょっとステキだね。
なんで。
夜と朝のハザマはアナタもワタシも互いを確しかめあうの。キミは誰なのって。
・・・キミはだあれ?
ホリカワミキ。女、24歳。
キミは誰。
カワシマタイチの恋人。
キミは誰。
私はだぁれ?
・・・。
今日は、川で釣りでもしようか。
言わなくちゃね。
言うって・・・もう父さんも、母さんも分かってるって。
そうだけど。やっぱりさ、別々の部屋に布団敷かれるってのは認められてないって事でしょ。
古い人たちだから。
やっぱそうでしょ、そうなんだよ。
私はだあれ。
キミは、ボクの妻になって欲しいヒト。
え!?
えって?
言うって、あたし達付き合ってるって言いたかったんじゃないの?
え、結婚したいって言うつもりで来たんだよ。
うっそー!結婚、え、結婚すんの?
なにオレ先走りすぎた?
まだプロポーズもしてもらってないじゃない。
指輪、あげたよね。
これ、誕生日プレゼントでしょ。
ははは。
ははは・・・返す、指輪。
え・・・。(男は、呆然と指輪を受け取る。)
(くすくすと笑って)これは、タイチがはめてくれなきゃ
ミキ・・・。
うん。
  男は、女の中指なんかに指輪をはめようとボケてみたりする、かもしれない。
そんな二人をひやかすように、朝の空にトンビが舞う。ピーヒョロロー。


終わってまた始まる
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