446話(2004年10月15日 ON AIR)
「忙しいんだよ、俺は」
作/金替康博
 
  男、なにか熱心に書いている。レポートか? 明日提出する書類か?
ま、何でも良いんだけど。女、そのような男を気にしない。
線路に石があるでしょ。
うん、あるね。
あれ、見てたら怖くなったのね。
・・・ふーん。
「なんで?」って聞いて。
長い?
短い。
男  なんで?
夜中に集まって来るのよ。
え? なに?
夜中に集まって来るの、あれ。大きさとかだいたい揃ってるでしょ、あの石。
集まって来るって、なに?
大きさとか、揃ってるのね、だいたい。だから、おそらく「もうそろそろかな、俺」とか言って来るの。
・・へえー。
言ってみて。
え?
「もうそろそろかな、俺」って言ってみて。
「もうそろそろかな、俺」
怖い。
忙しいんだよ俺。
  電車の音。部屋のそばに線路でもあるのか。
静かになる部屋。
ぞろぞろ集まって来るのよ。山という山から、もしくは川という川から。「もうろそろかな、俺」って思った石たちが。・・・ぞわぞわ。
ぞわぞわ?
じゃあ、ぞろぞろ。え? ぞろぞろとぞわぞわどっちが良い?
・・・ぞわぞわの方が気持ち悪いな。
でしょ。だから言い換えてみたの。
でも、ごろごろでしょ。石なんだし。
・・普通じゃない。
だって石がぞわぞわって変だろ。硬いんだから、ごつごつしてるんだから、石は。
軟らかいの、その時だけ。移動する時だけは、適度に軟らかいの。
知ってるだろ。俺、今、忙しいの。
石は、長い長い道のりをやって来るの。
・・・
何日も何年もかけて。
・・誰か見るだろ。そんなに動いてたら。
敏感なの。人の気配がすると石みたいになるの。緊張して、石みたいに。
・・石なんだろ。
緊張しいなのね。
・・・(石なんだろ。)
すり減って、すり減って。たどり着けない石もいるわ。それは、道端の砂になるの。小さくなりすぎたのね。それで、ゴウンゴウンって掃除されるの。
ゴウンゴウン?
夜中にやってるじゃない。車の下にブラシ付けたけたやつが。
水出して、ブラシ回して。
じゃ、掃除好きのおばさんに(箒ではかれたり・・)
自分がなにをしてたか忘れちゃう石もいるわ。長い移動を続けてるうちに忘れちゃうの。
雨で流され(ちゃう石も・・)
その石は海を見るの。忘れて、移動してるうちに、海に出ちゃうの。誰もいない海。夜中に、月だけが輝く海を見るの。ザザーン、ザザーン
・・・
そして思うの
・・・
そして海を見た石は思うの
・・・
・・石は海を見てなんて思うんだろう?
着いたって思うんじゃない? ・・やっとたどり着いたって。
うん。
まだ怖い?
ううん。あと、お正月の餅に乗ってるみかんあるでしょ。あれの茎のとこに付いてる葉っぱなんだけど。あるじゃない、ね。何段にもなってる餅の上に・・・
  電車。女の話をかき消すように


おわり
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