448話(2004年10月29日 ON AIR)
「ガラクタ理論」
作/樋口美友喜
 
  もう風が冷たい
海は一人で秋の空の下、屋上でノートを開いて朗読
「血管は一本の弦です。ビィンとゆれ、その中通る血液は稲妻と似てる。体中をめぐってノドボトケへ集められ、そこからピカリと光はなってやっと口からこぼれるのです。冷たい空気震わすのです。だから、もっと震わせ冷たい空気に熱こもるまで。私が機能していることを知るために、大声上げてみるのです」あああああああああああああああああ。
あーーー。
あー…こんなポエマーなこと言われても、よう分からんなぁー。
さよか。
まー、確かに健康やないと大声でぇへんと思うなぁー。
さよか…。
これ新作やったやんけ。
それが何で最後の作品になるねん。
ごめん。
何かあったら言えやー…って、いっつも言うてたのに。
ごめん。
さむ。
風、強いから。
高いわぁ、ここ。
屋上やもん。
ようやったなぁ。
へへ。
あほか。
ごめん。
なぁ、なんで?
うん…
なぁ。ずるいわ。お前どうせずっとこれからだんまりやんけ。
うん。
なぁ。
続き。新作の、続きあるねん。
へ?
ノートの一番最後のとこ。
  海がパラリとノートの最後をめくる
「ピカリと光って口からこぼれない…
昨日まできれいにキラキラしてたのに、ノドボトケを、お腹を、頭を、心をぐいぐい押してはみたけれど、こぼれて出るのはガラリロガラリロ。どうやら少し壊れたみたい。
またや。ポエマーすぎるねん。お前いろいろ考えすぎたから、
海。
何?
普通の音ってどんな音やと思う?
ジャンルは?
人。人が出す普通の音。私、ちゃんと音がでぇへんねんて。普通に喋られへん。
出てたよ。ちゃんと俺と喋ってたんやんか、あの日だって。
ううん。ぐってつまって。楽器なんやって。
楽器?
きれいな音が出るようにって。きれいな言葉が話せるようにって、楽器の楽。
ええ名前やんけ。楽の名前。楽器の楽。
せっかくいい名前つけたったのにって。
だから、
あー…あー…やっぱり出えへぇんよ。ガラガラ。ガラガラ、ガラリロガラリロ。普通の音ってどんな音やろ。ほら、少し、壊れたみたい。
  屋上に風が吹いた
  海 楽。
  もう楽は答えない
  海 楽?
  もう楽は答えない、ただ風が吹いているだけ
  海 楽!なぁ。ずるいわ。お前どうせずっとこれからもだんまりやんけ。なぁ。
  海は屋上から下へと叫ぶ、あの日も、どうやって叫んでいたのかもしれない
「血管は一本の弦です。ビィンとゆれ、その中通る血液は稲妻と似てる。体中をめぐってノドボトケへ集められ、そこからピカリと光はなってやっと口からこぼれるのです。冷たい空気震わすのです。だから、もっと震わせ冷たい空気に熱こもるまで。私が機能していることを知るために、大声上げてみるのです」あああああああああああああああああ。
  いくら叫んでも、楽はもう答えない
屋上から叫ぶ海の声は木霊のように、街を漂う
それは、海の鳴き声だ


おわり
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