455話(2004年12月17日 ON AIR)

「たとえば虫なら」
作/ごまのはえ
ゲスト出演/森下亮(クロムモリブデン)
 
私の夫はたとえがおかしい
「ウッソリした天気だな」
とか
「モチモチした天気だな」
とかはまだわかるのだが
「その弟がまたウバーとした奴でさ」
とか
夫  「わからないなりにウッショラしてほしいわけよ」
とか言われても私にはわからない。ウバーってなに?ウッショラってどーゆうこと。そんな夫が最近よく口にするのは…
「近頃ズベッ!としてないよな」
「なによズベッとって」
「だから、ズベッとだよ」
「全然わかんない」
私たちは話し合った。明日仕事が早いからといって先に寝たがる夫を無理に起こして私は夫を問い詰めた。
「だからなんなのよズベッとって」
「ズベッとはズベッとだよ」
「ズバッと?」
「違うって、もっと湿気があるの、ズベッとには」
「なに湿気って?」
「男としての湿気だよ」
「つまり、あの、最近男としてスッキリしてないってこと」
「違うよ。スッキリしてないならスッキリっていうよ。ズベッとしてないからズベッとしてないなーって言ってるわけで」
「じゃぁどうすればズベッとするわけよ」
「ブアーっとした気持ちになれたら」
「なに?」
「ブアーって」
「なにブアーって」
「ブアーはだから、ズベッ!とした気持ちだよ」
「…しばくぞ」
  突然だけど私は最近昔付き合っていた人と町ですれ違った。そのとき思ったことは
「あれ、この人こんなに背が低かったっけ?」ということであった。今の私の気持ちもそんな感じ。そんな風にさびしい。
あれ、この人こんなに馬鹿だったっけ?
それでもこの人が好きだから。自分のさめていく気持ちが怖くて私はむしろ感情的な声を出す
「なんか不満があるってこと?」
「は?」
「いまの状態っていうか私に不満があるから、ズベッとできないってこと?」
「違うって、おれが最近チムチムしてるのは俺個人の問題で」
「個人ってなによ」
「個人は個人、俺自身」
「私は、だから、その個人を聞いてるの。あんた自身のこと」
「もー(何か言いかける)…」
「ほっといてくれ、って言いたいの?」
 
「しかたないやん。いくら夫婦でも…」
「じゃぁ私はどうすればいいのよ」
 
「…ごめん」
 
「…今の私はリリリリって感じやわ」
「なにそれ?」
「横で勝手にチムチムされてリリリリって感じやわ」
「そうか」
(虫が鳴くように)「リリリリリ、リリリリリ」
「どうしてん?」
「リリリリリって感じなの!」
  「リリリリリ、リリリリ、リリリリリ、りりり(以下続ける)」
「じゃぁ、俺も。チムチム。チムチム。チムチム。チム(以下続ける)
  「チムチム」と「リリリリ」は次第に寄り添って、重なり合う。


おわり
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