460話(200年1月21日 ON AIR)
「お引越し」
作/大正まろん
 
  とある賃貸マンション。ダンボールが積まれた部屋。男はガムテープでダンボールを閉じ荷造りをしている。女は、カッターシャツにアイロンをかけている。
な、なあここ見てみ、ここ。
ん、ちょっと待って、カッターの袖のとこに変なシワが寄ってしもて、
アイロンがけなんかエエから見てみ、床にごっつい傷がついてる。
え、ごっつい傷?ウソやん。
傷っちゅうか、ここ。床になんかメリ込んだ跡っちゅうか、
ホンマや。なんやろこの三角形のヘコミ。
クンちゃん、ちょっと聞いてエエか?
うん
何で、今頃のんきにアイロンなんかかけてんの。まだ全部片付いてへんねんで。
明日マルちゃん仕事やろ、きれいなカッターシャツ、もうないから。

んなもんクリーニング出したらエエやん。

いつ、誰がクリーニング取りに行くんよ。
・・・あ、今日引っ越してまうもんな。
せや、私、別にのんきにアイロンかけてんのとちゃうで。
ゴメンゴメン。
・・・あ、わかった。
なに。
あれや。
あれってなんや。
あのアイロン。
アイロン?
ほら、去年あったやろ震度4くらいのん、
地震?
そう、地震のあと、アイロンがこの辺りに転がってた気がする。
棚から落っこちたんやわ。
そうなん?
見て、アイロンの先をこのヘコミに当ててみるやろ・・・ほらピッタリ。
お前が犯人か、とんでもない凶悪犯や。
もしこの下におったら・・・。
アイロン頭につき刺さってたかもな。
・・・シャレなってへん。
なんもなかってんから。
そうやけど
いや、なんもないことないわ。ここの保証金、戻ってこうへんかも。っつうか、余分に修理代とられたりして。うわ、それイタイな。
私、これから、毎日マルちゃんのお弁当作る。
弁当?
二十五年やで。
え。
家のローン。
・・・ああ。
なんか不安になってきた。返し終わる頃まで生きてるんかな。
生きてるよ、バリバリの五十代やで。
いきなり上から何か落ちてきて死んでまうかもしれへんねんで。
ま、取り合えず凶器になりそうなもんは、高いところに置かんようにして。

突っ込んできたトラックに跳ねられるとか、
脳の血管つまっていきなりイッてまうかもしれんねんで。

そう悪いもんでもないと思うけどな。
何が。
いつ死んでもエエわって思って生きてるより、二人三脚っちゅうか、こいつの為に頑張ろうっちゅうか、簡単には死なれへんみたいな、なんかそんなピッと張った気持ち?
それやったら私より一秒でもエエから後に死んでな。
オレは、お前の手握って「今まで、アリが十匹」とか言って死ぬんが理想やわ。
うわ、しょうもな。そんなん言うたら反射的にシバいてまいそうや。
ま、死ぬまでは生きてられるんやし。
そりゃあそうやん。
それまで一所懸命、生きてこ、二人で。
せやな・・・。
しかしどないしよ、これ。
え、ああ・・・床のヘコミもアイロンで伸ばせたらいいのにね。
いやいや、無理やし。
バンドエイド貼っとく?
お前、マジメに考えてるか?
  等々言いつつ二人は作業にに戻るのであった。

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