463話(2004年02月11日 ON AIR)
「 501 」
作/樋口美友喜
 
  ガチャリと鍵の束が揺れる音、バタンと扉が開くと同時に
酔っ払い ただいまぁ!
  お茶漬けでも食べていたのか、突然の訪問者に驚く住人
住人 うぇ!?
  そんな住人の驚きもそっちのけで酔っ払いは上がりこむ
酔っ払い 寒い寒い、まだまだ続くわ。春なんかとおーい。どこまで行ってんだばかー。
飲まないの、いつもは飲まないのよこんななるまで。先に他の人が酔うと酔わない体質なのにぃ。あいつらザルだ。食べる?スシ。スシー!?千鳥足でスシって、出来上がってるね。ちょっと、いっちょ熱いお茶でも入れてよ。
住人  あ?はぁ・・・
酔っ払い いっちょ、いっちょだって、何その言葉。えらそうなこと言っちゃってごめーん。ゆるしてー。いつもは尽くしてんじゃーん、じゃーん・・・じゃ・・・?
住人 あの・・・
酔っ払い んー・・・?子供がいるのは何でさ。
住人 子供って・・・!
酔っ払い あたしいつ産んだっけ?
住人 もうすぐ高校だっつうの。
酔っ払い 高校!?ざっとけいさんして15でしょ、あれ?あたし15で産んだの?うっそ、意外!やるじゃない、あたし。産むわけないじゃない!え?誰あんた!
住人 間違ってんじゃない?
酔っ払い あい?
住人 部屋。
酔っ払い へ?
住人 501。
酔っ払い そう501。
住人 じゃマンション間違ってる。
  バタン、バタンと一度外に出てみる酔っ払い、きっと表札なんかを確認しにいったのだろう
酔っ払い 表札間違ってる。
住人 間違ってない。
酔っ払い ちょっと、あたしのお気に入りの赤いソファどこやった?
住人 はじめっからない。
酔っ払い 何この湯のみ。何このコタツ。あたしの猫足テーブルどこやった?
住人 水飲んでよい冷ます?
酔っ払い あー・・・。ああだんだん冷めてきた。あー・・・間違えちゃった・・・
住人 え?
酔っ払い 間違えて前のアパート帰ってきちゃった・・・
住人 酔っ払い。
酔っ払い リビエールサワムラ501。
住人 はい、お水。
酔っ払い あー・・・ありがと。あー・・・無意識だし、あー・・・覚えてるんだ、足が・・・
住人 鍵。
酔っ払い えぇ?
住人 開けたよね?それ返しといてもらえるかな。
酔っ払い これはあたしの鍵。
住人 でも今違うし。泥棒入ったら一番に疑うから。
酔っ払い そんなことするわけないじゃない。
住人 引っ越すときに返すもんじゃないの、普通。
酔っ払い これはもらったの。あの時、合鍵作ってくれて、それで・・・
住人 それで?
酔っ払い ・・・捨てるに捨てられなくて・・・
住人 あぁ、思い出?
酔っ払い 思い出になってたらとっくに捨ててるわよ。
住人 めめしー。
酔っ払い あたし馬鹿みたい。こんな子供に大人のフクザツさが分かるわけないのに。
あー・・・頭痛い・・・
住人 飲みすぎだ。カッコ悪い。
酔っ払い あんたねぇ!あんた・・・あんた一人?
住人 ああ、昨日から。
酔っ払い 一人暮らし!?
住人 いいや。誰かとどっか行ったんじゃない?
酔っ払い 誰か?
住人 母親って人が。
酔っ払い 誰と?
住人 恋人って人と。
酔っ払い は?
住人 こんな酔っ払いに子供のフクザツさが分かるわけないか。
酔っ払い ・・・あんた、明日から、どおすんの?
住人 さぁ。
酔っ払い さぁって。
住人 何とかなるんじゃない?
  酔っ払い、完全に酔いが冷めた
酔っ払い とりあえず、スシ、食べる?とりあえず。
住人 ・・・いいね。とりあえず。
  フクザツな気持ちは消えないけれど、とりあえず、二人は501でスシを食べる


おしまい
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