464話(2005年2月18日 ON AIR)
「戻れない2人」
作/平野舞
 
  (固唾をのんで身動きすらできず立ち尽くす2人)
……どうする?
ぜったいヤバいですよ。
…だな…。
このままじゃ、あたしたち、絶対。
ああ。色々な局面をくぐりぬけてきたオレたちだけどさ、今ほどこわいと思ったことないよ、この仕事をさ。
…一人じゃなくてよかった。
(少し笑って)いや、オレ、今ヒザガクガクだぜ?
女  ----------------(時計を見て)あと、5分ですね。なんだかさっきからちっとも進んでない。
時計なんか見ちゃダメだ。今のオレたちには無意味だよ。そう、現実の時間なんてあいまいなのさ。楽しい時は光陰矢の如く、苦しく困難な時はまるで牛歩。ただ言えるのはこうしている間にも確実に時は流れている。オレたちは足止めを食っているわけじゃ、決してない。
つまり、心で刻め、と。
まぁな…。
  (その時人の気配が)
二人 !!
ここまでか…!
ああ…。
いや…大丈夫。通りすぎていってしまったよ。
もう、耐えられない!
お、おい!
なんでこんなことになっちゃったんだろう。あたしたちこんなハズじゃなかったのに。
しっかりしろよ。
もう一度数えさせて下さい!
何度やっても同じさ。オレたちに残されているのはあとこれだけ。
1、2、3、4…1、2、3、4……あと、4枚。どうすれば…。
どうにもできない、オレたちはここにこうしているしかないんだ!あとは、運にまかせるしか…
あたしが…両替さえ、両替さえしていれば、こんなことには。だってあと4枚。このレジの中には千円札がもうあと4枚しかないんですよ?!
もし、次に来る客が一万円札で支払おうとしようものなら、
おしまいです。なにもかも。帰ってもらうか、5千円以上の買物をしてもらうしか。
このコンビニエンスストアでそれはキビしいな。
あたし、ほんとはちょっと千円札少ないかもって思ってたんです。でもいつもなんとかなってるし、今日も大丈夫だって…。
うん。それはオレも同じこと。昼休みに家賃払おうと、銀行に行ったまではよかったが、あの混み具合はどうだ?みんな一体どこに振り込んでんだっていうくらいATM機は一向に空きゃしない。30分ならんだよ。…とても両替どころじゃなかった。
月末…ですから…。
チクショウ!
休けい時間が短かすぎるんじゃ?
それは言うな…!
すみません…。
うん。いや、オレこそすまない。不安なのさ。助けなんて来ない。こんな事態がおきてることすら誰一人知りやしない。今すぐにでも走って逃げ出したいさ。でもそれだけはできないんだ。オレたち、持ち場は離れられない、職務を放棄できないよ。
それが私たちコンビニ店員に与えられた使命なんですね。
“レジは、無人にしてはならない”
…はい…あと2分。ここが郊外のコンビニでよかったですよね。夜12時で閉店できるのが唯一の天の助けです。
いや…まだ安心はできない。おそらく今、最終の普通電車がいったところだ。ちょっとした夜食や明日の朝食用のパン、フロあがりにのむチューハイの一本でも買いに来る客がいるかもしれない。
ええ?!そんな…。
君はどうだ?急に甘いものやデザートが食べたくなったりしないか?
しょっちゅうです。
そんな時、人はかけこんで来るのさ、このコンビニに…。
そしてもうひとつ、世間の給料日が今日だったとしたら?
…ふ、福沢…諭吉…!
まちがいなくやつらは諭吉を差し出すだろう、何の悪気もなくな!
そんなのいやです!あたしは英世がいい!諭吉なんかいらない、英世がほしい!
オレもさ。ふふ、皮肉だな。諭吉なんかいらない…か。いつもと逆だ。
あ!時間です、閉店です!
(ため息)長い一日だったな…。さあ!シャッターを閉めるぞ!
はい!!あれ?カギ…カギ…
  (その時、ドアが開いて…ピンポンピンポン♪)
男女 ああああ!!
  (むなしく鳴り響く ピンポンピンポン♪)
男女 …い…いらっしゃいませ~~……

おしまい。
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