495話(2005年09月23日 ON AIR)
「キスと導火線」
作/樋口美友喜
 
  何本かの電車を見送ったあとで、
僕らは駅のホームに立ち尽くしてる
そして最後の電車も見送って
あーぁ、行っちゃった。最後の電車。ねぇ?どおするのぉーん?
お前は・・・帰れば良かったのに。
あんたが帰るまで付き合う。
帰らないって。もう出てきちゃったんだから。
荷物まとめて?
やる気はあるから。
どんな?
まだ・・・明確ではない、が。
が?
じっとしてられなくなって。なんか出来そうで。だから、
とりあえず家飛び出したのぉーん?
ないか?あるだろ?走りたくなる時が。雨上がって、太陽見えたらアスファルトが光って、あー、今走りてぇって。何もしてないのに、なんか徹夜しちゃった時に部屋から朝日が見えたら、あー、何か出来る、あー、今走りてぇって。
ひゃくめーとるそう?
違う。走るってカンジだろ、カンジ。
そのやる気、ほかにまわすこととか考えないのぉーん?
何していいか分かんないし。
ぼらんちあ、とかどう?
てっとりばやいかもしれないけど、なんか、なんっか、違うから。
でもくらしー、とかどう?
それもっと違うから。
ねぇ、どうしてライターがいるのぉーん?
だから今にも燃えそうなやる気を、
タバコ吸わないよね?
タバコのためだけにあるんじゃない・・・
燃えたぎってる?
  カチリとライター
君はタバコに火をつけて、大きく溜め息と一緒に煙を吐いた
何!?タバコ吸うのか?
そこにライターがあったから。
タバコはどっから!?
タバコの為だけ。
え?
それ以外はあんまし使わないほうがよくない?
・・・何だよそれ・・・全部分かってる、みたいな言い方、
分かるのぉん。昔っから知ってる。どうせバカなこと考えてるんだ?
・・・やる気、あるんだよ。燃えたぎるための、燃料は、ここにいっぱいあるんだよ。けど、
けど。
燃やしかたが・・・わかんないから。
から。
導火線・・・
ごみ箱の中、燃えやすいもんばっかだもんね。
目の前で燃えれば、分かるかなって。自分の中で、何でもいいから、火がつくかなって、
あんたって、ほんと、おバカ。
燃やしかたが、わかんないだけだって・・・
じゃあ、キスしよう。
は?
ライター捨てて、あたしとキスしよう。
  君は、ライターを捨てた
遠く、遠くへ、投げるように
そうして僕らは、
そうして僕らは、キスをした。ごみ箱の中に火をつけるかわりに、僕らはただキスをした。そのあいだ僕はずっといくつもの導火線の方程式を考え続けた。きっとどんな方程式にもXに僕のやる気を代入すると、それらの答えは全て炎となる。僕のやる気は導火線を作り出す。うん、いい出発だな。

きっと僕らは始発までキスを続けるだろう
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