528話(2006年5月13日 ON AIR)

「時計売り場の店員さん」

作・ごまのはえ
電話が鳴る音。
(電話に出て)はい。
(電話の向こう)久しぶり。
あ、
時計を買うの付いてきて。
「五年前に別れた彼女がそう電話をかけてきた。僕らは次の土曜日にデパートで待ち合わせることにした」
デパートの時計売り場。
いや。ここのお店。
店員さんに聞こえるよ。
どこ?
さっきこっちを見てた。
腕組みましょ。
はぁ?
いいから。(腕を組む)
(少し困惑して)おい。
どれがいいと思う。
ここはメンズだろ。
いいの。プレゼントだから。
え?
彼氏の誕生日。
・・・・。
どれがいいと思う。
「付き合っていたころ彼女には何度も困らされた。そのころはそれがいやで別れたんだけど。でもまぁそれが可愛さでもあったしな。僕は彼女の今の彼氏にエールを送るつもりで一万七千円の時計を選ばせてもらった。少しはしゃぎすぎたのだろうか、店員は下から睨むような目つきで僕らを見てた。買い物が終わって、ご褒美の時間」
オムライス専門店。
ありがとう。何でもくいな。
でも、一万七千円は高いね。
うん。彼氏には悪いこといっぱいしてるから。
どんな人。
やさしくて、包容力あって、人の話を聞いてくれる。
つまり、首ったけとことですか。
(照れて)えー、
君のほうが。
・・うーん。
結婚ですか。
なによ。
言い出せばいいじゃないか、君のほうから。
・・・・する気はありません。
「そのあと一緒に映画をみた。変わってないなこの女。別れて一人バス停まで歩いていると、後ろからぴったり足音がついてくる。早く歩けば早足に。ぴたりと止まれば足音も止まる。え、尾行ってやつですか?僕は思い切って後ろを振り向いた」
・・誰ですか?
・・・・。
「時計売り場の店員さんが黙って僕を見ていた」
「それから一年。彼女から何の音沙汰もなかった。でもつい昨日。彼女から結婚しましたの葉書がきた。腕を組みカメラの少しだけ上をみて幸せいっぱいに微笑む彼女の横にいたのは、あの時計売り場の店員さんだった。やれやれ。世界にまた一つ厄介な夫婦が殖えたわけだ。ため息一つついて、次第に顔がにやけてきた。この際いくらでも皮肉は言えるだろう、でも彼女の横でカメラを睨むように見ている店員さんが余りにまじめそうだったので、皮肉を言うのもむなしいな。ここはオーソドックスに・・結婚おめでとう 」
おわり