534話(2006年6月24日 ON AIR)
お父さんの靴

作 /大正まろん

ゲスト出演・小山加油(維新派)

 

スポーツ用品店のアウトドアコーナーにて。

お父さん。ほら、これなんかどう?

ああ・・・。

ちょっと履いてみて。

やっぱりいいよ。
え、どうして。

運動靴ならあるし。

普通の運動靴じゃ危ないって。
でもなぁ・・・。
なに。
結構な値段するんだな。こんな高い靴、履いたことないよ。
そりゃ、山に登る為の靴だもの。
しかしな・・・。

なに。

こんな立派な靴買ってもな・・・。
あのね、素人だからこそ、ちゃんとした靴を選ばなくちゃ。
素人って、六甲山なら何度も登ったことあるぞ。普通の運動靴でだ。
その女の人と登るのは、六甲山じゃないんでしょう?
トシ子さんとだけじゃない、会社の連中も行く。

残念ね、二人で行きたかったのにねぇー。

バ、バカっ。

ふふふ、怒らない怒らない。・・・あのね、登山靴は、足首もガードしてくれて、捻挫しにくいし、多少足をぶつけても大丈夫なように頑丈にできてるの。

カズミ、えらく詳しいな。

うーん、いまお付き合いしてる人が詳しいの。
え・・・聞いてないぞ、そんな話。
言ってないもの。
なんだ開き直るのか。
今度、ちゃんと紹介するって。ね。
今度っていつだ、そんないい加減な事じゃいかんだろう。
どうしてよ、父さんだって、彼女が居るとか、何も教えてくれないじゃない。
親は親、子供は子供だ。立場が違う。
じゃあ、ちゃんとした靴買おうよ。

おい、話を元に戻すな。

戻すの。ほら、ここに座って、履いてる靴を脱いで。

だから、靴はもう、いいよ。
靴、買ってさ、今度、四人で山登りしよう。お父さんの彼女と、私の彼氏と。
彼女じゃない。そんなもん、トシ子さんに失礼だ。
あ・・・ひょっとして、トシ子さんって人に、自分だけが山に誘われたと思ってたのに、後から、みんなで行くって後で分ったとか?
い、いや。
図星か。だから「運動靴で行く」だなんて、消極的になっちゃったんだ。
・・・お前、イヤじゃないか。
何がよ。
もしも再婚するなら、お前に新しい母親ができるわけだし。
全然。
ぜんぜん。

むしろ、その方が安心して家を出られるよ。

家を出るって、いつ?

今すぐってわけじゃないけど、いずれは私だって、ね・・・。
貸せ。
え。
その靴。
はい。
  靴を脱いで、登山靴を履いてみる父。
痛かったり、窮屈じゃない?
ん。
じゃあさ、もう片方も履いて、ちょっと歩いてみるの。
ん。
どう?
・・・一生で、一番高い靴を買ってみるか。

終わってまた始まる

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