541話(2006年8月12日 ON AIR)
「 いただきます 」

作 /樋口美友喜

御頭

ぴくん!

アタシ

動いた!

御頭

ぴくん!

アタシ

また動いた

御頭

ぴくんぴくん。ぴくッ。

アタシ

だからアタシはイキモノなんて大嫌い。

 

賑やかな店内
活気あふれる店員の声とお客の笑い声、食べ物の匂いばかりが立ち込めて

アタシ

それをガツガツ食べる人間はもっと大嫌い。何が楽しいのかしら?パパもママもお兄ちゃんも。だから皆息がクサイのよ。土曜日はいっつもお決まりのお出かけお食事コース、なんて。無理やりアタシを外に出したがる。めんどくさい。クサイ臭い。どこ行ったって人ばっかり。分かった、分かったってば。

 

きっとママあたりが、はやく食べなさいとか言ったのだろう

アタシ

食べるってば。キャベツとって。

 

きっとパパあたりがまた好き嫌い言って、とか言ってたのだろう

アタシ

いいの。キャベツだけで。ほっといて。やだママ。それは絶対食べないからね。
だからその魚の目玉こっちに向けないで。気持ち悪い。

御頭

ギョ。

アタシ

お兄ちゃん、なんか言った?

御頭

ギョギョ。

アタシ

パパ、からかってるの?

御頭

ビクッビクン。

アタシ

ママ、この魚動きすぎ!

御頭

イキがいいんだな。

アタシ

よすぎるから気持ち、わる・・・へ?

御頭

あ~、肩こった。この皿硬いな。

アタシ

・・・ママ・・・

御頭

食うならさっさと食いやがれってな。じっとしてるの退屈なんだってーの。

アタシ

パパ!

御頭

やめとけやめとけ。どうせ笑われるだけってな。

アタシ

この御頭喋ってるよお兄ちゃん・・・

御頭

「喋るわけないじゃーん」「何言ってるのこの子ったら」「またそうやって食べない理由つけてるんだろ」ほらな?言ったとおりってな。

アタシ

・・・そうそう、言い訳。いつものこと・・・あははー・・・

 

と、アタシは家族に言ってから、小声で御頭に話しかける

アタシ

アンタ、何?

御頭

見たマンマ。

アタシ

御頭?

御頭

アウチ。

アタシ

何!?

御頭

右の背びれが動きやがった。

アタシ

もう身体バラバラだけど。

御頭

しかし動くんだなこれが。最後のあがきでよ。

アタシ

あがき?

御頭

生きてー、あとちょっと、まだもうちょっと生きてーって、身体のあっちこっちが言ってるわけよ。

アタシ

恨むんなら、アタシは違うんだからね。

御頭

ウォ?

アタシ

だって食べないもん。お肉もお魚も生きてる匂いがするから。皆、よく平気で、食べて、気持ち悪い・・・

御頭

おいおい、お前長生きしねぇな。

アタシ

なんでよ。

御頭

決まってるじゃんか。俺様を食わねーからよ。

アタシ

息が臭くなるから。

御頭

臭いのは俺らじゃなくて、お前自身だろう。どうせ食ったってじっとしてりゃ。

アタシ

何が言いたいの。

御頭

おっと、もうそろそろ時間だ。

アタシ

何の?

御頭

ピクピクの時間もそろそろお終いっつーこと。ちゃんと「頂きます」しろよ。

アタシ

え?

御頭

文字通り、頂いて生きてんだからお前。

アタシ

・・・

御頭

あー、もうちょっと生きてー。

 

賑やかな店内
活気あふれる店員の声とお客の笑い声、食べ物の匂いばかりが立ち込めて

アタシ

ママ・・・この御頭、もう動かないよ・・・

 

アタシたちは頂いたものを、ちゃんと活用して生きていけているのかしら

おしまい

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