556話(2006年11月25日 ON AIR)

「東西のスパイ」

作・上田誠

男、歩いている。
ふと、歩みを止める。
・・・・・・すいません。
!・・・・・・はい?
あなた、さっきから、僕のこと、つけてきてますよねえ?
(ごまかして)いいえ?
(小声で)ちょっと、あんまりね、公衆の面前で、こういうこと言うのもなんなんですけど、・・・・・・あなた、スパイですよねえ。
(慌てて)はあ!?ちょっと、違う、何言って、はあ!?
いやいや、めちゃめちゃ動揺してるじゃないですか。あなたスパイじゃないですか。
はあ、違いますよ。あなたがスパイなんでしょう!?
(慌てて)バカ、違う、はあ?何いってんのお前、はあ?
あなたこそ動揺してるじゃないですか。スパイだからでしょう。
ちっがうよ、バカ、お前がスパイだろう。
あなたがスパイでしょう。
いやいや、俺スパイじゃないけど。
私もスパイじゃないですけど、あなたがスパイって言ってきたってことは。
え、なになに、スパイって言ったらスパイになるわけ?
スパイじゃないとスパイなんて発想にならないでしょう。
うわ、その論理がなんか、スパイっぽいもん。論理的な感じが。
あなたこそ、スパイじゃないと、そんな鋭い反論できませーん。
(周りを気にして)ちょっとちょっと。あんまりおっきい声でやめようよ。
ほらほら、そうやって気にすること自体、スパイだからじゃないですか。
いやだから、俺はスパイじゃないけど。
私もスパイじゃないですよ。
だから、スパイであるとかどうとかじゃなくて、モラルだから。これは。
スパイにモラルとかないでしょー。
いやだから、俺スパイじゃないから。
お前、スパイだから、モラルないかもしれないけど、俺モラルあるから。
モラルあるイコールスパイじゃない、とはならないでしょう。
じゃあさ、いいよ。じゃあさ、スパイじゃないのに、何でつけて来たわけ?
そのさあ、つけられてる、って気にしてる時点で、もう、スパイですよって、言ってるようなもんじゃないですか?
いやいや、俺が、俺がスパイだとしたら、お前もスパイだよ?
はあ?
なぜなら、スパイである俺をつけてきたから。
(おおげさに)認めた!
いやいや。
この人、自分をスパイだって認めた!
(慌てて)ちっがうよ、だから、今のは仮定の話で。スパイではないけど。俺が、スパイだったとしたら、自動的にお前もスパイだよ、っていう。
その、つけるイコールスパイって発想、おかしくないですか。
だからイコールスパイとまでは言ってないけど、
言ってるじゃないですか。スパイの俺をつけたイコール、お前もスパイだなんて、そんなの、スパイならではの論理でしょう。
ちょっと、やめよう。さすがにスパイスパイ言いすぎてるから。
はあ?やめないっすよ。
みんな見てるから。俺たちのこと、スパイだって目で見てるから。
私スパイじゃないですもん。
俺もスパイじゃないけど、(気づいて)君泣いてるよねえ!?
泣いてないですよ。スパイじゃないですもん。
(あわてて)泣くなって。泣いたらスパイみたいになっちゃうから。
泣いてないです!
泣いてるから。明らかに。スパイはね、いつ、いかなるときでも冷徹で、まあ、スパイじゃないよ?スパイであるなしに関わらず、冷徹で、機密を守るべく、そう、あるべきだから。泣くってことは、スパイの規範に反することで・・・・・・
どんどん、ざわめきが大きくなっていく。
END