560話(2006年12月23日 ON AIR)
「 ソラにササグ 」

作 /大正まろん

 

高層マンションのフロアー。
ランドセルを背負った少女が、エレベータを降りてくる。
少女は、扉を開けて出てくる隣に住む男と、ふと目が合う。

   

あ、おかえり。

少女

こんにちは。

・・・僕も、経験あるよ。

少女

え・・・?

えと、僕は君んちの隣の、

少女

シゲムラキヨシ、さん。

あ、知ってた。

少女

ママが言ってた。お隣に越してきた人、ゆーめーな指揮者だって。

そんな有名でもないんだけど。ははは。

少女

あの、

君、荷物をたくさん持たされてたろ?周りに居た子、クラスの子達?

少女

ソラ。

・・・♪シー、ド?

少女

違う。私、ソラ。オオノソラ、名前。

ああ、ソラちゃんか。いい名前だね。

少女

別に。

さっきね、ベランダでボーッとしてたら、見えちゃったんだ。

少女

違うよ、

あれは、君じゃなかったのか。

少女

キミじゃなくって、ソラ。キミってちょっとキモイよ。

キモイか。

少女

・・・イジメられてたんじゃないから。

あ、ああ。

少女

ジャンケンで負けただけ。

そうかそうか。・・・俺が荷物持たされてた時は、ジャンケンに勝っても、後だししただの、何だかんだ言われて、結局俺が負けるまでジャンケン、そしてみんなの荷物抱えてノロノロ。押され、こづかれヨロヨロ。

少女

うっそだぁ。

嘘じゃないさ。

少女

だって有名人でしょ。

今は有名人かもしれないけど、子供の頃は、普通の子供だったし。

少女

なんでイジメられてたの?

・・・そうだなぁ、僕は小さい頃からピアノを習っててね。僕の母親が、ピアニストにしたかったんだ。だから、体育の授業もつき指するかもしれないってんで、ほとんど見学。・・・今にして思うと、それが原因だったのかな。キヨシだけ楽してズルイ、あいつに荷物持たせてやれってね。

少女

ずっと?

ま、色んな形で、卒業するまでイジメは続いたかな。

少女

でも、私は違うから、ジャンケンで負けただけだから。

じゃあ、勝った時は、持たせてるんだ。

少女

・・・そう、だよ。

ソラちゃん、痛みには二種類あるって知ってる?

少女

なにそれ。

我慢できる痛みと、我慢のできない痛みの二っつ。

少女

知らない。

我慢できる痛みってさ、成長してる時なんだ。痛いけどほんの少し気持ちいい。でも我慢できない、ただただ痛い時は、

少女

時は?

痛いよって、自分だけで我慢しないで、誰かに言わないと、心が壊れちゃう。

いきなり、よくわかんない話してごめんな。

少女

なんとなくわかるよ。けど、

けど?

少女

ソラは、ジャンケン、わざと負けてやってんだ。バイバイ。

・・・バイバイ。

終わってまた始まる
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