575話(2007年4月7日 ON AIR)
「 石鹸の味 」

作 /大正まろん

息子

何してんの。

え。

息子

それ石鹸だろ。

そう。

息子

母さん今、口に、

香りを嗅いだだけよ。

息子

いやいや、見てたんだって。

なんか用があったんじゃないの?

息子

あ、ここの住所、ピザ頼もうと思ったけど、わかんないから。

あ、そうか。えと・・・何だっけ・・・。

息子

大丈夫かよ。

私、変?

息子

風呂場で石鹸食ってる人が居たら、心配するっしょ。

食べてない。舐めただけ。

息子

それもヤバイッて。

・・・「いい石鹸は甘いんだよ」って。

息子 母さんの母さんが言ってたの?

「いい」って、体にいいって事かしら。それとも値段の高い石鹸って事かしら。

息子

さあ。

きっと高い石鹸って事ね。母さんの事だから。

息子

石鹸て何でできてんだっけ。味見なんかしていいの?

ペロッと一舐めするくらいどうって事ないわよ。

息子

どんな味だった?

わかんない。・・・やあねえ、住所は思い出せないのに、
こんな変なことを、思い出すなんて。

息子

ごめんな。

どうして謝るのよ。

息子

いや、俺、お祖母ちゃんつっても会った事なかったし、正直、顔見知りの他人より遠い感じ。でも俺、母さんや父さんが死ぬなんて今は考えられない、考えたくもない。悲しくて生きていけないかも、って事はさ、絶縁してたけど、自分の生みの親が死ぬって、結構辛いんじゃないか、とか想像したりもするんだけど。でもやっぱり、リアルには程遠くて・・・。わかってあげられなくてごめん。

うちの母さんも、息子を産んでおけばよかったのに。

息子

どういう意味。

息子ってのは、何だかんだエラソーな事言ったり、突っ張ったりもするけど、
結局、母親に優しいのよ。

息子

そうかな。どーだろ。

浴槽にほら、こんな手すりが取り付けてあったり。そこの洗面所にね、拡大鏡が置いてあったり。そんなの見ちゃうと、母さんも年取ったんだなって、当たり前だけど驚いちゃう。青白くて般若のような顔して扉を閉めた、あの時まんまで私の中の母さんは止まってたから。

息子

会わないまんまだったこと後悔してるの?

弱った母さんをこの上なく甘やかして、私になつかせて、「あん時はすまなかったねえ」、とか言わせてみてもよかったかな。へへへ。

息子

おお、コワッ。

ほんっとバカね。つまらない意地を張って・・・。

   
 

   
息子

石鹸貸して。

え。

息子

貸して。

なに。

息子

お祖母ちゃんの味を知ろう。(舐める)

あ・・・。どう?

息子

ん・・・あまじょっぱい。でも嫌な味じゃない。

うん。

終わってまた始まる
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