580話(2007年5月12日 ON AIR)
「 待てないよ 」

作 /大正まろん

「それは、二十六歳の誕生日。彼から食事に誘われた。ちょっと期待した。何をって、
だって付き合ってもう四年だよ、大切な話があるなんて言うし。でも彼が言い出したのは・・・」

ニューヨークに転勤になっちゃって。一応、栄転ってやつ?

「ちょー嬉しそうなんだよ。『おめでと、すごいじゃない』なーんて私が言うと」

ピース。

「などと両手をチョキにして有頂天。皮肉の通じない単純男め。二十数年生きてきて、人には表と裏があるって事を知らないのか。そこが可愛いという説もある」

二年で戻ってくるし、・・・二年なんかアッと言う間だよ。な。

「アナタにとってはアッと言う間でしょうね。みたいな意地悪を、思っても口に出せない臆病なワタシ。」

僕も、君みたいにバリバリ仕事できるやつになって帰ってくる。だから、

「それまで待ってろってか?私が待ってるワン、なーんて言うと思ってるのか?どっからその自信は湧いてくんだよ。それに、なんの保証もないのに、ただ待てってか?・・・保証、保証ってなんだ・・・」

だから、なんて言うか。・・・あ!大事なもん渡すの忘れてた。

保証?

え?

「しまった、心の声が口から滑りでてしまった。」

これ、誕生日プレゼント。

「軽そうな、でも高級感漂う小箱、これって、これって、婚約指輪とか?」

開けてみて。

「いつの間に指のサイズ測ったんだろ。君もやるときはやるんだねえ。」

今、一番売れてるってのを買ってみた。好きだって言ってたでしょ。

「確かに言った、言ったとも。フレーバーティが好き!ってね。でも私が今欲しいのは、
お茶の葉っぱじゃないんだぁ~」

ごめん、好みじゃなかったかな。

「ご褒美もらえなかった犬みたいな顔するんじゃない。思わず、『嬉しい、飲んでみたかったのこれ』とか言っちゃったじゃんか」

それから、もう一個プレゼントがあるんだ。これは、僕とお揃い。

「お揃い?お揃いって事は・・・、などと再び期待した私がバカだった。中味は、マグカップ。幼稚園児が書いたような、絵つきの」

この犬の絵はね、僕のデザイン。

「可愛い、可愛いけどさ、そうじゃなくってね」

遠く離れてても、これでお茶を飲む時、僕を思い出してよ。僕もキミを思い出すから。

「嫌だよバカ。・・・転勤する前に一言くらい相談しろよ。アタシはアナタのなに?付き合ってきた四年はいったいなんだったんだよ、バカ、バカバカバカぁ」

嬉しいな、そんなウルウルするくらい喜んでくれて。

「喜んでないっ。もーヤダ。ズバッと言ってやる。言ってアナタに踏ん切りつけてやる。」

ねえねえ、僕のマグカップも見る?

あのね、

なに。

私、そんなに強くないよ、待てないよ、二年も一人ぼっちで居るなんて絶対無理。
だからね、

なに?

別れよう。

え・・・。

いやその、あなたと一緒に、このマグカップを使う生活ができないなら、だけど。

え、でも、つまり、それって、一緒に来てくれるの?いいの?ホントいいの?

「私が言い出したことに一番驚いたのは私だ」

後悔させないように、頑張るから、オレ。

「後悔もすること請け合いだろう、きっと。底抜けに頼りないし、女心をわかってくんないし、栄転なんて喜んでるけど、そそのかされただけだろうし、苦労するに決まってる・・・でも、ホレてるんだ、私ったら。」

終わってまた始まる
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