583話(2007年6月2日 ON AIR)
「 恋文屋 」

作 /樋口美友喜

 

ピ、ポ、ピ、パ
携帯のプッシュ音は町の中で音楽を作る
町中で、携帯がきっと鳴り響いている

恋文屋

あなたのかわりにその恋の言葉、連ねます。歯の浮くような言葉も、心臓ドキリとわしづかみにするような言葉も、気を引く冷たい言葉も、引いて押して巻き込んで、振り向かずにはいられない恋の言葉、あなたのかわりに連ねます。恋、コーイ。恋、コーイ。

依頼主

あの。

恋文屋

恋、コーイコイ。いらっしゃい。メールで送る?まさか今時手紙?授業中に回すってのもアリか?いや、でもやっぱ今はケータイで告るね。長すぎるのは駄目、一言ズキュンってやつ考えるから。

依頼主

これ、一回いくら?

恋文屋

今ならキャンペーン中だから800円ね。安い!

依頼主

成功率は?

恋文屋

え?

依頼主

成功率。大事でしょ?

恋文屋

大事・・・だねぇ。大事だ、確かに。

依頼主

あんまり良くない?

恋文屋

そ、んなこと、ないよ。ありがとうメールいっぱいもらうもん。あのさ、確かに成功率って大事だと思うよ、思うけど、大切な事はさ、伝えるってアクションなんだって。

依頼主

伝えて受け入れられなかったら?繊細なあたしの心どうなるんでしょう?

恋文屋

恋はさ、玉砕覚悟なんだから。

依頼主

砕けちったら立ち直れない。

恋文屋

砕け散ってまた固まって、前より強くなるもんだよ。骨も一度折ったところは強くなるって、それは関係ないか?大丈夫、極上の恋の言葉考えるからさ。相手は?どんな人?

依頼主

それが、

恋文屋

うん。

依頼主

あんまり、よく知らないんです。

恋文屋

あるある。よくある。うん。名前も、年齢も、住んでるところも、連絡先なんて、

依頼主

もちろん知りません。

恋文屋

じゃ、メール無理だな。

依頼主

聞けば教えてくれると思うんだけど、

恋文屋

聞く勇気ないだろ?

依頼主

ない。

恋文屋

じゃ、これレターセットな。別売りだから。

依頼主

その人も、あたしのことよく知りません。名前も、たぶん。

恋文屋

存在は知ってる?

依頼主

知ってるんじゃ、ないかな。

恋文屋

で、どこをどう好きになったわけ?

依頼主

それが自分でもよく、

恋文屋

分からないって?

依頼主

でも、たぶん、お仕事してるとこ見て、かな?

恋文屋

その人の職業は?

依頼主

・・・ボランティアっぽいけど、そうじゃないし。強いて言うなら、サービス業?かな?
いや?違う?どうだろ?

恋文屋

知らないことだらけだな。

依頼主

じゃあ、無理ですか?

恋文屋

無理じゃないよ。ド直球で行くか。書いて。

依頼主

あ、はい。

恋文屋

「連絡ください」

依頼主

は?

恋文屋

これだな。あとはお前の名前と携帯書く。うん、これだな。

依頼主

こんなんで、いいんですか?

恋文屋

引きずってるカンジが出て、いいな。

依頼主

これで連絡がくるんでしょうか?

恋文屋

携帯かけないわけにはいかないだろうな、うん。

依頼主

じゃあ、

恋文屋

うん?

依頼主

これ。

恋文屋

・・・え?

 

依頼主は恋文屋に恋文を渡す

恋文屋

あ、ちょっと・・・!

 

恋文屋が声をかけるけど、依頼主は足早に走り去って
残された恋文屋は手紙を見て

恋文屋

恋文、もらっちったよ。

 

恋文屋、ちょっと笑っちゃうかもしれない

恋文屋

これじゃ、かけないわけにはいかないよな。

 

ピ、ポ、ピ、パ
携帯のプッシュ音は町の中で音楽を作る
町中で、携帯がきっと鳴り響いている
きっと今頃、依頼主の携帯が鳴ってる

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