595話(2007年8月25日 ON AIR)

「熱い熱い逃亡者」

作・腹筋善之介
ここはレストランFUJI(エフ・ユー・ジェイ・アイ)。ごくごく平凡なファミリーレストラン。周りには他に店がないからたくさんの来客がある。国境に向かう道沿いにあるからか、様々な人間が集っている。お金持ちであったり、スラム出身であったり。多国籍感満載。その中でも、パルプフィクションに出てきそうな男女二人が、なにやら話をしている。
モレイラ
「マシェル、マシェル、マシェル。ああ、なぜこんなに僕の心は、君のその名前を口ずさむだけで、恋焦がれた屋根上の猫のような気持ちになってしまうのだろう。」
マシェル
「モレイラ。」
モレイラ
「ああ、麗しいわが乙女、マシェル。僕の名前を読んでくれるのかい。安っぽいシャンデリアが照らし出す君の顔は、まるで、まるで‥」
マシェル
「あれはレストランFUJIのドリンクバー明かりよ。モレイラ。」
モレイラ
「ああ、そうだった。現実的なその光も夢の世界に誘うマシェル。」
マシェル
「ありがとう。ねえ、モレイラ。あの、あの、もっちりとした、そのう、黄なりのその‥、ウイロウ!車のトランクに入っているウイロウどうするの?」
モレイラ
「そう!まさにあの薬はウイロウ。君の聡明さには舌を巻いてしまうよ。すばらしい表現。」
マシェル
「どうするの?」
モレイラ
「ああ、マシェル!君がいるから大丈夫。どんな薬であろうと、君にかかれば、ウイロウになってしまう。その聡明さに僕は完敗だよ!ハハハハー!」
マシェル
「ええ、でも、さっき入ってきた二人の男性。あれはどう見てもマフィアからの追跡者よ。私たちは消されてしまうのよ。」
モレイラ
「おお!なんてことだ。こんなに熱く愛し合っている二人が、朝露のごとく消えてしまっていいのだろうか?そんなことを僕は決して許さない!」
マシェル
「そうでしょう、モレイラ。どれだけ苦労して、あの、ウイロウをマフィアからくすねてきたか、覚えているわよね。」
モレイラ
「勿論だとも。あんな物騒な薬を扱うマフィアなんて許せないって言ったその君の唇。君の唇には真実がある。だから僕はくすねた!」
マシェル
「ええそうよ。でも、二人の追跡者をマフィアはよこしてきたのよ。そして私たちは消されてしまう。モレイラ、お願い、何とかして!」
モレイラ
「マシェル、大丈夫。僕はこう見えても現実主義者なんだ。たとえ愛に浮かれていようと、現実を踏まえて行動することこそ、僕の美学。」
マシェル
「ええそうよ。モレイラ。そんな、モレイラ、素敵だわ。輝いている。」
モレイラ
「おおマシェル!君に見つめられると、僕のIQは500から5000へと跳ね上がる。いいかい、今僕たちは、このレストランから出ることは元々不可能。」
マシェル
「ええ、モレイラ、そうよ。だって私たちは、」
二人で
「一文無し。」
モレイラ
「でも、あの物騒なウイロウを売りさばけば、」
二人で
「大金持ち!」
マシェル
「でも、売りさばくのにも、このレストランを出て、追跡者をまいて逃げないとだめ。しかも国境を越えるにはお金が必要よ。」
モレイラ
「さすがマシェル!その通り!でも大丈夫。僕たちの持っているものを最大限に利用し、そこに活路を見出すしかない。」
マシェル
「ええ、そうよ。どうするの?モレイラ?」
モレイラ
「僕たちには何もない。あるのはこの熱い思い!さあ、マシェル、僕たちの熱い思いを全開にするんだ!いいね!マシェル!」
マシェル
「ええ、モレイラ!あなたを信じているわ!」
突然立ち上がる二人。大声で。
モレイラ
「マシェル!おおマシェル!僕のいとおしい人。マシェル、マシェル。君が存在し、僕が同じときに存在するこの奇跡に感謝します。」
マシェル
「ええ、モレイラ!私の素敵な人。」
モレイラ
「マシェル、マシェル。僕は君の微笑みに、世界の幸せをみた。僕は君の悲しげな顔に、世界の不幸を見た。さあ、マシェル、僕に微笑んでおくれ。一生君の微笑を僕は見ていたいんだ。さあ、微笑んでおくれ、マシェル、マシェル、マシェル!」
マシェル
「ええ、いいわ。モレイラ、モレイラ、モレイラ!」
モレイラ
「マシェル、マシェル、マシェル!」
マシェル
「モレイラ、モレイラ、モレイラ!」
二人の熱い求愛が続く。レストランの人たちの歓声。二人にお金を投げる人々。
モレイラ
「ああ、マシェル!僕たちのこの熱い思いに、すべての人が感応し、お金まで投げてくれる。幸せな二人だと、みんなが応援してくれているんだ!」
マシェル
「ええ!なんて素敵な人々でしょう!」
モレイラ
「さあ、あの車で、国境を越えよう!そして隣の国々でこのレストランの人々の優しさ、暖かさを語り続けよう!さあ、マシェル、僕たちは、結婚しよう!この幸せの波に乗って、僕たちは結婚をみんなに約束しよう!」
マシェル
「ええ!モレイラ!」
モレイラ
「国境を越えて行こう!出発!」
車の音。二人はうまく危機を乗り越え、隣国へと向かった。
おしまい