596話(2007年9月1日 ON AIR)

「湯加減はいかが?」

作・大正まろん
男は、湯船につかると、心地よい吐息を漏らす。
あ゛~・・・はぁぁぁ・・・。
湯船から、ざんぶりとお湯がこぼれる。
外に面した窓から声がかかる。
湯加減はいかが?
ちょっとぬるいかな。
じゃあ、もうちょっと薪くべるね。
あれ、ばあちゃん?じゃないよな。
違うよ~。
へ、誰?
さて、誰でしょー。
さとみ叔母さん?
はずれ。
ええー。
忘れちゃったの、ツトムちゃん。
ひょっとして、向かいん家(ち)のナッちゃん?
あったりぃ!・・・ちぃっす。
のぞくなっ。
なによー、昔は一緒に入ったじゃない。
それは、ガキんちょの頃でしょ。
ツトム君、大学行ってんだって?
行ってるよ。
もう学校始まってんじゃないの?
夏休みずっとバイト漬けでさ、盆も帰らなかったから、
じいちゃんの墓に参っとけって母さんがさ。
春先に亡くなったんだってね。
そう、でも百近くまで生きたんだから、大往生だよ。
もっかい会いたかったなぁ・・・。
ナッちゃんこそ、なんで?
おじいちゃんのこと聞いたからさ、お線香上げさせてもらいに来たの。
就職して、一人暮らししてるって聞いてたけど。
まあね・・・。
辞めたの?
ううん、ちょっと遅めの夏期休暇。でも辞めようかどうしようか、考え中。
マジで?都会で生きるの疲れちゃったぁ、とか?
まさか。ラクチンだよ、一日中涼しいとこに居られて、
パソコンカチャカチャやってるだけでお金もらえるんだもん。
いいじゃない。
私じゃなくってもいいんだなぁ、って思っちゃってさ。
ふーん・・・。
わかんないか。
俺はバイトしかしたことないから、俺じゃなくってもゼンゼン大丈夫な仕事ばっかだよ、
それでも頼りにされたら嬉しいけどな。
そうなんだよ、そうなんだけど・・・。
けど?
蛇口をさ、ひねったらお湯が出るじゃない、でも私は薪くべて、お風呂焚くほうが好きなんだよね。なんかお湯も違う気がするんだ。そういう感じ?そういう生き方っての?できないかなって思ってさ。
そりゃ、俺もこの五右衛門風呂が、一番あったまるし、疲れも抜ける気がするよ、
でも・・・ちょっとアツくね?
青臭いこと言ってんのはわかってるよ。
じゃなくて、釜茹でになりそうなんだけど・・・。
あ・・・くべすぎちゃったね。
ゥアッチィ!(立ち上がる)
ははは、ごめんねー。
バカこらのぞくなって!
後でウチおいでよ、ビールでも飲も!
お、おう・・・。
終わってまた始まる