598話(2007年9月15日 ON AIR)
「 鉄仮面 」

作 /山浦 徹(化石オートバイ)

 

そこは男と女の行きつけのバー。

   

「今日、おれは指輪を買った。もうすぐ彼女がやって来る。
今夜ついにプロポーズするんだ。」

   

お待たせ!

   

「おれは彼女を見て驚いた。彼女の頭は完全に、鉄仮面で覆われていた。なんでだ? ウィッグのつもりで鉄仮面を被ったとか? おしゃれ? まさかそんな…」

   

似合うかしら!

え?

あ、やっぱりおかしい? 似合ってないかな。すごい、一目惚れして買ったんだけど、やっぱり恥ずかしいかなって思ってずっと着てなくて。今日が初めて。でもかわいいと思うんだけど。

え、何のはなし?

これよ、ワンピ。

ああ。ああ、ワンピね。うん、よく似合ってるよ。もちろん。

良かった。

服はいいんだけど、どうしたの、それ?

どれ? 何?

何って、それ。

あ、これ?

そう、それ!

やっぱり変かな。

変だよ。

昨日自分でやったんだ。

自分でやった?

ちょっと切り過ぎちゃったかな?

え、何を?

前髪でしょ?

ああ、うん、いや前髪じゃなくてさ…

やっぱり短すぎる?

いや、…わかんないんだよね。

なんで? なんでわかんないの?

なんでって。

やっぱりわたしのことちゃんと見てくれてない。最近ちょっと冷たいものね。

そんなことないよ。おれはお前のことしか見てないよ。

嘘ばっかり!

本当だよ。

(コーホーという呼吸音)

なあ。

(コーホーという呼吸音)

   

「沈黙されると恐ろしい。きっと、かわいく拗ねているんだとは思うが、今の彼女はとてもじゃないが、そんな風には見えない。」

   

じゃあ、言って。今日もかわいいよって。

(言いにくそうに)かわいいよ。

今日も。

今日も、かわいいよ。

良かった!

   

「ひょっとして、本人も気付いてないのかもしれない。鉄仮面を被ってるってことを。気付かせた方がいいのか。」

   

お寿司と言えば、

え?

お寿司と言えば鉄火巻だよね。

そうかなあ、ウニじゃない?

   

「鈍い。鉄面皮とはこのことか。」

   

実は今日は話したいことがあったんだけどさ。

なあに、急にあらたまって。

うん。

なんかドキドキするな。

うん。でも話したいこと増えちゃったよ。

なあに、はっきり言って。

うん、その…。

…別れ話? そうなんでしょう?

いや、違うよ。

嘘よ。目をそらしてる。ちゃんとわたしの目を見て。

見たいのはやまやまなんだけど、どこが目だかわかんないんだよね。

ひどい! あんまりよ!

   

「その瞬間だった。駆け出した彼女の頭に、空から降って来た植木鉢が激突した! でも彼女の頭は当然無傷。鉄仮面は無惨にへこんでしまったけど、今でもぼくらの新居に飾ってあります。もうすぐ生まれて来る息子の初節句の兜も、鉄仮面でキマリです!」

<了>
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