600話(2007年9月29日 ON AIR)
「 恐怖のからあげ 」

作 /ごまのはえ

その日僕はすごいものを見た。

   
 

改札の雑音。

   

駅の改札を出たところに、バトミントンのラケットを持った女子大生が10人くらい。どうやら練習帰りに皆で飲みいくつもりらしい。

   
 

女子大生たちの会話が聞こえてくる。

   

無理やって今からこの人数はいる店探すのは無理。だって今日金曜日やで、どこの店も混んでるって。だって12人?11?え?柴崎帰ったの?トイレ?帰ったの?まぁいいわ。11人も、あ、柴崎いるやん。12人も入れる店ないって!
…わかってるよ、皆そろうの今日しかないって、知ってるって。だから……。
こうしよ!
聞いて!河川敷で飲もう。だから、スーパーでビールとからあげだけ買ってきて河川敷で飲もうよ。
いいやろ?いいやろ?結構いいアイディアやろ?ビールとカラアゲやったら一人800円もいかへんし、ビールがダメな人はお茶とカラアゲでいいし。いい感じやろ。
なに柴崎、財布だして、なんかもってるの?なにそれ?なんかのクーポン?え?おすしの半額券!宅配の?それめっちゃいいやん。それで御寿司たのもうよ。一万円のコースたのんでも半額で五千円やろ、それでビールとカラアゲ買って、めっちゃ豪華やん!
じゃ柴崎それ電話してよ。誰かコンビニでお茶とビール買ってきて。私スーパーのお惣菜コーナー行ってくるわ。
…え?カラアゲ買ってくるんやん。え?いらん?カラアゲいらん?いや別に私も絶対カラアゲってことじゃないねんで、御寿司もあるし。でもカラアゲ的なものなんか欲しくない?いやカラアゲ的でいいねん。だから「的」っていうのは、カラアゲじゃなくてもいいし、からあげでもいいねん。
私個人はカラアゲでいいねんけどな。
え?いらん?みんないらん?カラアゲがいらんの?カラアゲ的なものがいらんの?どっち?
任せるって任せられても困るよ。
…。
だって、なんか、私って今めっちゃカラアゲが好きな女みたいに思われてない?
もしくはこいつはカラアゲがあったら満足なのかとか思ってない?
なんかさっきからそう思われてる気がするのよ。
私そんないうほどカラアゲ好きじゃないよ。好きじゃないけど、カラアゲあったら皆食べるかなーって思って、カラアゲカラアゲ言ってるだけでさ。
私さっきから何回カラアゲって言ってるんやろ。10回はカラアゲって言ってるよな。わずか3分ほどの間に。
っていうかまたカラアゲって言ったし、二回言ったし、って言ってるうちにまた言ったよな。カラアゲって。…。また言った。
ちょっとこれ世界記録ちゃう?調べてよ世界記録。
「3分間のうちに何回カラアゲって言えるか」。
もちろんわざとじゃなくよ。ってまたカラアゲって言ったよな、また言った!
ちょっと柴崎!数えといて!私が何回カラアゲっていうか。
ほらもう言ったよ、カラアゲって言った。って二回目!すでに二回カラアゲって言った。
え!怖い!今めっちゃ怖い。私絶対カラアゲって言いたくない。っていうかまた言ったし!やばいって!これなんか取り付いてるって、カラアゲの亡霊が取りついてるって!

   

その後も彼女はカラアゲカラアゲ言い続けた。ちょっとして友達が「もうカラアゲって言うのやめいや」と言いだし、その子も「カラアゲ」がとまらなくなった。それを止めに入った子も、「カラアゲ地獄」に入り込む。まるで集団感染だった。女子大生たちは集団で「カラアゲ」を言い続けた。人は「カラアゲ」と口にすると止まらなくなる。そんな馬鹿なと思ってるあなた。ほんとなのです。現に私だって今、何度カラアゲと言ったでしょう?そして「カラアゲ」という言葉が、止まらないのです!止めようと思えば口を閉じるしかない。私は「カラアゲ」なんて言葉は別に言いたくもないし、カラアゲ自体そう好きでもないのに、なんでだろ、ほら、ね、カラアゲって言ったでしょ。止まらないんですよ、カラアゲが…。

おわり
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