604話(2007年10月27日 ON AIR)

「求愛のダンス」

作・伊藤拓(France_pan)
ラブホテルにいる二人。グラスに注がれたウィスキー。
氷のぶつかる音。二人は乾杯をして、お酒を飲み始めた。
改めて自己紹介をしようじゃないか。自己紹介。自分の事を、自分で、自分の力で、しっかりと僕に紹介して欲しいんだ。僕は君に、君だけに、君だけの、君自身の力を振り絞って全身全霊で自己紹介をして欲しいって想うわけなんだよ。
相変わらず強引な言動ね。
いやいや、だってね、自己紹介ってほら、初対面限定で行われるものでもないわけだし、この自己紹介って儀式が、ほら、僕は君の事がいつもいっぱい知りたいわけで、君も僕の事が知りたいんだろ? だから、ほら、まずは自己紹介。
(鼻で笑う)
つまるところ、君は誰なんだい?
アナタが好きで好きでしょうがない人のお母さん。
違うよ! 子猫ちゃん。
じゃ、アナタが好きで好きでしょうがない人のお母さんの服をまとった68のオッサン。
違うったら! アメリカンショートヘアー。
笑い合う二人。
(独白) 俺は今日、彼女にプロポーズしようと思っている。
おさかん。
いや、今日はお預け。大事な話があるんだ。
そういうのは、その摩天楼を隠してから言ってくれる?
ジェームス・ブラウン”Get Up”が数秒流れる。
(独白) 結局、やってしまった。
どこからともなく、大歓声。
お見事。
再び氷がぶつかる音。ウィスキーを味わう二人。
(独白) 「結婚して下さい」。たった十文字。今こそ。
で、今日は何? 聞く耳ぐらい持つわよ。
(独白) 少しイラっとしたけど、チャンス到来。頑張れ、俺。
実は・・・結・・・・構美味いんだよ、八宝菜って。
・・・
(独白) 何言ってるんだ、俺は!!
ちゃんとまじめに言ってよ。わざわざ、時間割いてるんだから。
(独白) イライラっと、セカンドチャンス到来。負けるな、俺。
実は・・・君と、潔癖マン参上!!
・・・
(独白) 何だこのポーズは!!
突然、女が男の頬を強く叩く。
優柔不断な人って、私好きでも嫌いでもない
・・・僕はただ、君との人生をもっと明るくしたいんだ。君との人生を。
突然、女が爆笑。
アンタの人生なんて知ったこっちゃない(爆笑)
・・・こっちゃない?!
♪こっちゃない!! こっちゃない!! 知ったこっちゃない♪
♪こっちゃない!! こっちゃない!! あいこでしょ♪
(お囃子のように)
(独白) そのフレーズを口ずさんだまま、彼女は部屋を飛び出し、ラブホテルの殺風景なロビーで独りこっちゃないダンスを踊るのだった。
♪こっちゃない!! こっちゃない!! 知ったこっちゃない♪
♪こっちゃない!! こっちゃない!! ペンケポンケピー♪
(独白)頼む、早く服を着てくれ。確か、僕は君が好きなんだ。
終わり