617話(2008年1月26日 ON AIR)
「 苺ジュース 」

作 /なかた茜(トランスパンダ)

 

(外で救急車のサイレンが鳴り響いているが、やがてサイレンは遠ざかっていく)

   

まだ、片付けてたの?

そう・・・・・どれを残してどれを捨てたらいいのか分かんないの
・・・・残すものなんてないのに・・・・・何かあったの?

ああ・・・・交通事故だって。

そう・・・・・。

なんか・・・・・すごく静かになったな・・・・・・。

そうね・・・・・誰もいないみたい。

まるで、オレもいないみたい・・・・・。

え?

(少し笑って)なんでもない・・・・・・どうしたの、これ?

さっき果物屋さんがくれたの、食べる?

何でコップにいれてるの、苺。

だって・・・・・お皿とかないじゃない?

そうだな。
なあ・・・・・・憶えてないか、ジュース屋ごっこ。

え?

憶えてるわけないよな・・・・ずっと昔の子供の頃の話だから。
オレも、今になって思いだしたぐらいだし・・・・・・。

コップに苺を入れて・・・グチャグチャに潰したんだっけ?

そう、それ!

   
 

(男が笑顔になるのでつられて女も笑ってしまう)

   

なあ・・・・結局、苺ジュースってどんな味だった?
したことは覚えてるのに味が思い出せない。

もう1回、やってみる?

え・・・・いいの?

割り箸・・・・あったと思うんだよね・・・・あった、はい。

うん、サンキュ。

   
 

(2人、コップの中の苺を割り箸で潰していく)

   

オレさ・・・・・・毎日毎日ここのカギ閉めてたんだよ。
閉めるたんびに、次の朝にまた開店するから寝坊できないなって考えてて、もう・・・・明日になったら遅刻したって文句1つも言われない。
誰も準備なんてしないし、買い物にも来ないんだなあ・・・・・誰も。
そんなこと今まで考えたことなかった・・・・・・・。

スーパーのことは仕方ないよ・・・どうしようもないよ。

そうじゃなくってさ・・・・・何て言ったらいいのか、バカでかっこわるいなあ、オレは。
なんか、今だったら色んなこと見えてくる・・・・皮肉なもんだよ。
一杯ありすぎて、どうしたらいいか分かんないけど・・・・・ごめん。

   

飲もう、苺ジュース。

なんか、最後に良かったよ・・・・・・・ずっと気になってたから。
色んなこと見えたり分かったりする割に、どれも不確かな気がして。
この想い出すら・・・本当にあったことか、わかんなくなって。

(優しく)ね・・・・飲んでみようよ。

ああ・・・もう行かなきゃいけないからな。

   
 

(遠くで救急車のサイレンが聞えてくる。)

   
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