62話(1997年6月6日 ON AIR)

「朝」

作・冬乃 モミジ
目が覚めたらもう朝でわたしはコンクリートに波のカタマリが打ちつける音を聞く ザッパーンザッパーン
タタミの部屋の開け放たれたガラス戸のむこうから 自転車の通り過ぎる音 カラカラカラ 原付や自動車も通る ババババブッブー 小学生がもつれあいながら登校する笑い声 ひやかしたり どなったり小学生って なんであんなによく笑うんだろう 一人の子は本気で怒ってどなってるのに それが可笑しくてたまらないらしい それで また別の子たちは ぜんぜん違う話をしている ちっともまっすぐ歩きゃしない
わたしは布団の上に体を起こしてそのままボーッとしたままで海のにおいがする



 あれどうしたっけ ペン立て あれ気に入ってたのに どうしたっけ捨てたんだっけ ボーリングの球の形のペン立て 赤くて 小学校5年か6年の誕生日にもらったやつ 下の台は白くて プラスチックのこわれたんだっけ 捨てちゃったんだっけ



どうしてわたしは今ここに居るんだかわからなくなって 順番にそのわけを確かめてみる それはあの時ああ言うしかなかったから その原因は あの場合はどうしてもそうしたかった その前は…どんどん遡ったってしょうがないか
今わたしはここにいて これからの事を考える



そろそろ起きよう 布団をあげて 昨日の夜一個一個手に取った懐かしいガラクタは またしばらくダンボールの中
海に行く 玄関を出ると 花のにおいと 土のにおい ちょっと坂をおりれば もうソコ
赤と白の鉄塔のある小さな島 島へ行くフェリー
とてもよく知ってる景色と そこにいるわたし 妙な感じ



足を広げてしっかり立ってみる  空に向かって胸をはる これに限る 松の木林に風が吹く ザザザザ 波がよせるザザザー
フフンと笑ってみる



砂浜に寝っ転がってる子が見える 学校さぼったのか ま いいんじゃないの

海沿いの道を 僕は 自転車を走らせる
油が切れててヤな音がする 空気も減ってる 道路の段差が体に響く



わき道にそれて 海岸に降りる 自転車で砂浜を走るのは難しい 海には犬が似合うと僕は思う このあいだ見た奇麗な犬を思い出す きれいっていうのは 目がきれい 毛並みもよかったけど つまり存在が きれい あんな風になりたいと 誰でも思うね たぶん



自転車を降りて砂の上に寝っ転がる 寝っ転がったまま 島に行くフェリーの音を聞く



帽子の中も襟の隙間も砂だらけだ ヤシの実でも流れてこないかねそんな歌あったなぁ 名も知らぬ遠き島より ナントカナントカ



テトラポットの上に女の人が立ってる


空には雲ひとつ無い 真っ青 スッコーンと晴れてる いいねぇ
息をする度に海のにおい ここも悪くない だって海が見えるし スーパーのおばちゃんオマケしてくれるし ここの言葉がわたし一番しゃべりやすいんだし
また フェリーの音がする そうだいつかあの鉄塔の下まで行ってみるか
さて そろそろ行こう 僕は自転車を起こして歩き出す
あの子の自転車 あれいいなぁ 買おうか うん よし 今日 自転車買いに行こう
アスファルトの道にあがって 自転車を走らせる
砂がはいってヤな音がする 帰ったらきれいにしてやろう 油もさして 空気も入れて 空気入れあったよな 物置ん中だったかな

(Bの自転車Aの前を走り抜ける)
あれあの子 学校いくのか
            …なぁあんた 砂だらけやよ