622話(2008年3月1日 ON AIR)

「敗北」

作・大正まろん
ウエクサさーん。お疲れさまでーす。
お・・・おう。
キツネうどん、お願いしまーす。
イノウエさん、休みやろ。なにしてんねん。
なにって、うどんを食べに来たんです。
こないだも来たな。
はい!
ここでさんざん食ってんのに、休みの日ぃくらい違うもん食いたないか?
っちゅうか、うどん中毒?
うどん中毒?
出汁の香りかいだら、思わず暖簾くぐってまうっちゅうか、それはエエねん、
そんな話やなくて、
うどん屋で働いてたらうどん食べちゃダメですか?
アカンことないよ。どこでなに食おうと自由や。便所で柿食おうと井上さんの自由や。
私、トイレで柿なんか食べてないです。
シャレやシャレ。
私、ウエクサさんの、それ、好きなんですよね。
え?
シャッとお湯切るとこ。
別に、普通やって。(うどんを釜からあげ、ザルを振ってお湯を切る)
手首の切り替えしがいいの。ボクサーって感じ。
見んといて。
テレちゃって可愛い。
鬱陶しいな。
鬱陶しい・・・。
せや鬱陶しいわ。
私・・・グレムリンに似てるとか言われるし、胸ないし、彼氏いない暦七年だし、そんな女が、未来のチャンプの回りうろちょろするのやっぱ鬱陶しいですよね。メソメソ。
勝手に泣いてろボケ。
ひっどーい。
ちょう、自分な、店、見渡してみ。
いっぱいです。
昼時の忙しさ自分かて知ってるやろ。
はい。
んでシャラシャラ涼しい顔してここに居るっちゅうのは、あんま頂けん行動とちゃうか。そういう無神経さに怒ってんねや。
そうですね。私自分のことしか考えてないイケナイ子でした。
わかってくれたらそんでエエねん。
でもそれくらい、ウエクサさんが好きってことなの。恋は盲目って感じ?
あ゛っぢぃ。・・・俺のこぶしが・・・。
大丈夫ですか?
イノウエ、はよいね。
はい?
俺、ブチ切れんうちに帰れ。
ええと、まだうどんが、
ここはうどん屋や、うどん食う人と食わせる人、ここも真剣勝負の場なんや。お前に食わせるうどんは無い。恋愛したいんやったら、動物園に行け。
動物園って恋愛したら行く場所で、動物園じゃ恋はできません。
俺は今、ボクサーになったことめっちゃ後悔してる。
どうして。
お前のこと殴られへんからな。
なんでなんで。
なんでもへったくれもあるかい、帰りさらせ、どアホ!
シィー(静かに)。お客さん皆こっち見てますよ。
あ、すんません。なんでもありません。
ただの痴話げんかでーす。もう、しようがない人。ふふふ。
すまん。・・・俺はこの時、とてつもない敗北感を覚えた。俺の論理、俺の美学、俺の生き様、このグレムリンには何も通用しない。
何一人でぶつぶつ言ってんですか、ほらほら、てきぱき動いてくださーい。
そして、このままズルズルと、ズルズルと負けていきそうな予感がした・・・。
終わってまた始まる