623話(2008年3月8日 ON AIR)
「 カナシミの生態 」

作 /山内直哉

 

チョークで黒板に文字を書く音

   

はい、今日はコレを勉強したら終わります。教科書は、56ページ。はい、いい?“カナシミ”の生態について。じゃあ、一行目。川上くん読んで

川上くん? どうしたの?

いや、何でもありません

何してるの?

いえ、何も

はい、一行目読んで

はい…“カナシミ”は、カワセミと似ているが、生態はまるで違います

はい、ありがとう。そう、これは間違いやすいので、よく覚えておいてね

イタアっ!!

何? どうしたの?

大丈夫?

大丈夫です

川上くん、カワセミって、何だっけ

カワセミは…鳥?

そう、鳥ね。今から勉強するのは、“カナシミ”。じゃあ、“カナシミ”っていったい何だろね。教科書のポイントってところ見てみよう。まず、大切なこと…(チョークで「弱い」と書きながら)“カナシミ”は、弱い生き物です。(「人の数」と書きながら)そして、人の数ほどいます。はい。そして、コレが不思議なこと。人の数ほどいるのに、“カナシミ”自身は、自分一人しかいないと思っています。(「自分一人」と書きながら)ココ、大切よ。青鉛筆ね。黄色のチョークは青鉛筆。赤いチョークは赤鉛筆。いいかな? 川上くん? 何で立ってるの?

…別に

後ろ、何かしてるの? 佐々木くん、コレ、テストに出るからちゃんと聞いときなさいよ。はい、じゃあ、みんな、教科書の写真を見てみよっか。その、“カナシミ”の写真を見て、何か感じることあるかな?

(無言で手を挙げる)

おっ、川上くん

“カナシミ”は…

うん

“カナシミ”は…

すごくキラキラしてるでしょ。こんなに綺麗って知ってた?

“カナシミ”は、大人には見えないんですか

え?

大人になったら“カナシミ”って見えなくなるんですか?

そんなことはないよ? 先生だってみんなと同じだもん

   
 

生徒たちのペンやノートを仕舞う音

   
 

コラ、勝手に仕舞わない。まだ終わるって言ってないでしょ

ありがとうございました

ん? いいのかな?

はい。もういいです

はい、じゃあ、この続きは明日やるねー

   
 

窓を開ける男
校庭の喧騒

   

川上くん? 何してるの? 危ないよ?

僕の背中に“カナシミ”が付いてたんで

どうするつもり?

逃がします…

それはダメっ。待ちなさい! 川上くんよく聞いて。“カナシミ”は、宝物なの。
生まれたときに、みんな平等に与えられる宝物。その宝物でみんな強くなって行くの。
だから、やめなさい

   
 

校庭の喧騒

   

ごめんなさい

川上くんっ!

   
 

“カナシミ”が音もなく空を舞う

   
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