626話(2008年3月29日 ON AIR)

「先生と澤井くん」

作・ごまのはえ
深夜。
澤井くんと先生は電話で話をしている。
今年もしたよ。
花見の約束?
うん。でも、やっぱり、誰ともいかなかった。
そう。
五人くらいとした。今年こそ花見しようねって。忙しいけど時間つくろうねって。
そうか。
絶対、今年こそ約束守れると思ってた。
うん。
沈黙。
澤井くん。
…。
澤井薫くん。
先生。
何?
約束した時、今年もまた無理かなーってちょっと思ってた。
そう。
どうしてもしちゃうんだよ。無理かなって思ってても。
今日ね。娘が来てくれた。下の娘。澤井くんと同い年。銀行に勤めててね。ハンカチに桜の花をはさんでもって来てくれた。校庭にあった桜の木からとってきたんだって。何度も私にそういうのよ。でもウソよね。学校がなくなる時桜の木は全部切ってしまったし。
そういえば先生が気づいてくれると思ったんだよ。
娘がね、ずっと手をさすってくれるの。喋りかけながらずっと。そのうち手が痛くてね。でも「もういいよ」って言えないし。
そう。
私と澤井くんがこうして電話でお話してるって知ったら、皆はなんていうかしら。
誰も信じないよ。
そうね。
それに誰も僕のこと憶えてない。
そんなことないわよ。転校してきた子のことって意外とみんな憶えてるから。
「意外と」
すねないの。子供じゃないんだから。
僕のこと憶えてるの先生だけだ。
こうして電話かけてきてくれるの。澤井くんだけ。
どうしてだろう。
どうしてかな。
この電話番号。
沈黙。
先生が死んだらお葬式に来てくれる?
…。わからない。
こなくていいわよ。
え?
先生が死んでも、澤井くんとはこの電話でお話できるから。きっと。
きっと。
おわり