630話(2008年4月26日 ON AIR)
「 アンブレラ 」

作 /池川辰哉(妄想プロデュース)

 

SE 雨の音 FI

   

彼女が、結婚した。聞いた話によると、真っ白なドレスに包まれた彼女は、本当に幸せそうだったらしい

   
 

SE 窓の開く音
SE 雨の音大きくなる。

   

僕にはあの時から1つ癖がある。傘を気持ち右側に傾けてさしてしまう。一人分の間隔空けて。だから、雨の日。僕の左肩は、いつもやや濡れている。

   
 

SE 雨の音大きくなる。

   
 

「アンブレラ」

   
 

SE 雨の音は、徐々に道端の雑踏に変わる。

   

朝八時。僕は日課の彼女との待ち合わせを行っている。毎日欠かさず待ち合わせているから、近所のおば様方とも顔見知りだ。今日も僕を見ながら会話を楽しんでいる。ん、こんな所にダンボールが落ちているぞ。そうだ!これで、隠れればおば様方からの熱い視線も防ぐことができるかもしれない!よし!

   
 

SE ダンボールを纏う音

   

おう!意外にあったかいぞ!これは毎朝の待ち合わせスタイルにもってこいだ。でも、おば様方の視線は、なくなるどころか2・3人の増量を完了し、熱く降り注いでくる。

   
 

SE 石の飛んでくる音

   

いて!近所に住んでる愛美ちゃんが、僕に石を投げつけている。やめて!そんなに嫉妬するんじゃない!

   
 

SE 石の連続攻撃の音

   

ひぃ~~!痛い!いたたたたたた!愛美ちゃんの投石攻撃は止まらない。もてる男はつらい。だが今の僕は布ばかりを纏っていない。くらえ!保温性抜群、ダンボールガード!

   
 

SE 石のぶつかる音

   

いでー!なぜだー!は!気付けばまなみちゃんは石ではなく、岩を投げている。

   
 

SE 岩の飛んでくる音。

   

いだー!

   
 

SE 倒れる音

   

そ、想定外だった。僕のかっこよさは、ここまで少女を追い詰めていたのか。まなみちゃんの気持ちも知りながら、おば様方とも・・・こうなっても仕方ないか。

   
 

SE 雨の音。

   

俺の涙が、雨になったってか。しかし、大丈夫だ。こんなこともあろうかと、彼女の好きな色の折り畳み傘は用意済みだ。男を上げたな。僕。ん?もう九時か。彼女の登校時間だ。一緒に学校に行ける。僕はかなり濡れてしまっているけど、彼女はこんな僕でもやさしく「馬鹿。」って笑っくれるはずだもん。ふー。よし!

   
 

SE ドアの開く音。

   

あ、おはよ・・・

   
 

SE 雨の音大きくなる
SE 雨の音多少小さくなり

   

彼女は一人暮らし。いつも少し重そうな荷物を持っているから、僕が持ちたいと思っています。でも今日は、二人出てきました。僕の持ちたくても持てなかった荷物を持って。

   
 

SE 階段を駆け下りる音。

   

彼女があからさまに表情を歪めた瞬間、一人がすごいスピードで僕に向かって・・・

   
 

SE 殴られる音
SE 水溜りに倒れる音

   

殴りかかってきた。

   
 

SE 台詞の後ろで、何か人の声が判別つかない程度で流れる。

   

一人が僕に何かうなっている。彼女は・・・あれ?怖がってる。誰にだい?僕かい?・・・・ほっぺが痛い。痛い。痛い。

   
 

SE 雨の音。FI
SE パトカーの音。FI
SE 激しく何かをたたく音 CX

   

ルールができた。よくわからないルールです。

   
 

SE 台詞の後ろに雨の音 FI

   

彼女の何メートル周囲に近寄らないこと。というか、彼女に関わらないこと。じゃあ、彼女の重そうな荷物は誰が持つんだろう。誰が彼女と待ち合わせて、誰とご飯を食べて、ちょっと真剣に夢の話とかしちゃって、誰と笑って。誰に、馬鹿って言って。誰に?僕じゃない、誰に?

   
 

SE 雨の音大きくなる、とても。
SE 窓の閉まる音。CX

   

彼女が結婚した。ルールはいまだ解けない。多分、しばらくは。

   
 

SE 家の扉を開ける音。
SE 雨の音。
SE 鍵をかける音。
SE 傘を差す音

   

僕にはあの時から1つ癖がある。雨の日の僕の左肩は濡れっぱなしで、右側にいるはずの君はぬれていない予定だ。多分。

   
 

SE 雨の中を歩く音。

   

やっぱり今日も、同僚の田口さんに、左肩だけ濡れているのを笑われることは、もうわかっている。

   
 

SE 雨の音大きくなる。

   
<幕>
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