632話(2008年5月10日 ON AIR)
「 ソラ色の涙 」

作 /大正まろん

子供

涙をください。

え?

子供

涙を。

えと・・・。

子供

見て。

   
 

子供は、小瓶を取り出し、男に見えるよう手を伸ばす。
しゃらしゃらと、美しい音がする。

   
子供

別れの涙はなずび色、うれし涙はさんご色、あくびの涙はこはく色。
後悔の涙はサビ色。

この小さなガラス玉みたいなのがナミダ?

子供

色んな人にもらったの。でも見つからない。

何が?

子供

今夜も、夜の虹を渡れない。

夜の虹。

子供

虹を渡れば、帰れるの。

どこへ。

子供

虹を渡った場所に。

さっぱりわからない。

子供

ダメですか・・・。

いや、やってみてもいい。暇だし。

子供

ほんとう?

泣けるのかな。僕はいつから泣いてないんだろ。

子供

じゃあ、最初に流した涙の話をして。

最初に泣いたのは、いつだっけか。じいちゃんの家だったかな・・・。
柱時計が音を刻む以外は、なにも音がしない静かな夜。
隣の布団で父さん母さんは死んだように眠ってる。
壁にぐるりとかけられた、ご先祖さまの写真が僕を見下ろしてた。
その視線をはずすことがイケナイ事のようで、じっと息ひそめ、
写真と見つめ合ってた。気が付くと僕は宇宙のことを考えてた。
宇宙の一番端はどうなっているんだろう、みたいなことを。・・・
その時、突然、圧倒的にわかってしまったんだ、
今僕を見下ろすご先祖様の写真のように、自分が黒い額縁の中に貼り付けられてしまっても、わからないことは、わからないままなんだって事を。
命には限りがあって、僕は色んな謎にたどり着くことはできないんだって事をね。そして僕は、声をあげて泣いてた。泣かずにはおれなかった、
でもどうして泣いているのか、説明はできなかった・・・ねえ、君・・・、

子供

え・・・。

君の目から、今、

   
 

子供の目から、涙がこぼれ落ちる。

   
子供

限りを知った涙、ソラ色。

君の涙。

子供

ボクの涙。これが泣くってこと。

ああ。

子供

ありがとう。

いや、なんにも。

子供

いつまで、ここに居るの?

いつまでもこうしてるワケにはいかないんだけどね。

子供

今夜、虹を渡るよ。見ていてくれる?

もう、涙集めはいいの?

子供

うん。

そう。

子供

さよなら。

・・・さようなら。

   
終わってまた始まる
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