633話(2008年5月17日 ON AIR)
「 オーディション 」

作 /田中 遊(正直者の会)

 

面接官
(オーディション)参加者

   
面接官

えー、次は・・・。エントリーナンバー85番の方。

参加者

(がたっというイスから立ち上がる音)はいっ!

   
 

参加者は、極度に緊張している。頭に血が上っているようだ。人の話をまともに聞けないくらい。
いわゆる「テンパっている」状態である。

   
参加者

よろしく!・・・。おねがいしますっ!

面接官

(苦笑)・・ええ。そんな緊張なさらないで。

参加者

すいませんっ!

面接官

こういうオーディションは始めてですか?

参加者

いえ!結構何度も受けさせていただいております!

面接官

ああそうですか・・。えーと。ではですね。お名前を教えていただけますか?

参加者

はいっ!あの、自分、フクイケン(「福井県」のイントネーション)ですっ!

面接官

はい?

参加者

あ!ごめんなさい。間違えましたっ!

面接官

あーいえいえ。大丈夫ですよ。

参加者

すいません!

面接官

いえいえ。えーと。

参加者

はい!

面接官

ご出身地が?

参加者

チバ(「千葉真一」のチバのイントネーション)です。

面接官

え?

参加者

チバケン(「千葉健」という人名のイントネーション)です。

   
 

   
面接官

「千葉県」?

参加者

はいっ!(名前を呼ばれて返事をするニュアンス≠肯定の「はい」)

面接官

えー・・・。

参加者

はい。

面接官

えと、じゃお名前が「福井」さん

参加者

「福井県」です。

面接官

・・・。福井,ケン(健)、さん。

参加者

はい。福井県です。はい。

面接官

「福井さん」

参加者

「福井産」。はい。

面接官

え?ですよね?

参加者

はい。産まれました。

面接官

え産まれた?

参加者

あ、ごめんなさい違います!どうしよう!あの産まれたのは、違います。

面接官

えーと。今とりあえず産まれた所とか忘れてください。

参加者

はい!忘れます!んー・・んー・・(と忘れる努力をしているようだ)

面接官

あの・・・

参加者

はいっっ!

面接官

いえ。はい。で、「お名前」は

参加者

秋田ですっ!

   
 

   
参加者

えー産まれたのは

面接官

産まれた所いいですから。

参加者

すいません。くそぅ・・・んー・・(と忘れようとする)

面接官

あの、「秋田さん」なんですね。

参加者

はいっ!「秋田産(というイントネーション)」ですっ!

面接官

・・・。秋田、何?さんですか?

参加者

はい?

面接官

下の名前は?

参加者

下。秋田の、下、は。山形

面接官

やっぱりですか。

参加者

え?あ、あ!すいませんケンです。

面接官

秋田、健さんですか?

参加者

そうですね。はい。

   
 

   
面接官

えー。秋田さんの、何か特技か何かありますか?

参加者

「特技」?えー・・ああ、「特技」と言いますか・・その、「樺細工」ってご存知でしょうか?桜の木の皮を使った、あの、オチャッパを入れる筒とか。

面接官

それを、作られるんですか?

参加者

はい。職人さんが、すごい、こう・・・技術がね。手間も随分かかるらしいです。

   
 

   
面接官

失礼。「あなたのお名前」が

参加者

「私の名前」が、

面接官

「秋田健さん」

参加者

秋田健

面接官

ですよね?

参加者

はい。わかりました。

面接官

え?

参加者

はい。

面接官

え?

参加者

(小声で)「秋田健」・・・「秋田健」・・・。
はい。大丈夫です!(「秋田健」という役名を与えられたというふう)

面接官

え?だから秋田さんなんですよね?

参加者

「俺はぁ、秋田だ!(芝居がかって)

面接官

いやあの

参加者

あ、ごめんなさい。調子に乗りましたすいません!

面接官

ええ。えーと。私、もうずいぶんとめんどくさくなってきてますけど。

参加者

はい。

面接官

今まだ、あなたのお名前の話をしてるんですよ。

参加者

はい。すいません。

面接官

名前。氏名です。

参加者

はい

面接官

わかりますよね?

参加者

秋田の使命は、え、地球を、

面接官

いや違います!秋田の使命じゃなくて、あなたの。

参加者

私は、何の為に

面接官

名前ですよ名前!

   
   
   
参加者

名前。秋田ではない私の・?もう一人の私が・・・

面接官

いやだから、そうか・・

参加者

あだ名ということでしょうか?(テンパっているのと追いつめられたので泣き始めてしまう)

面接官

ああ、もういいです。

参加者

すいません!本当にすいません!自分、不器用で・・・

面接官

もう結構ですから。

参加者

やっぱり、生まれ故郷を忘れることはできません!

面接官

はい。もう帰ってください。

参加者

帰りたいんです!でも親に合わせる顔がないんです!

面接官

お引き取りください!

参加者

お願いします!一旗揚げるまでは帰れないんです!(などなど・・)

   
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