643話(2008年7月26日 ON AIR)

「そののちの家族」

作・大正まろん
こんな早くに、よく帰ってこられたね。
ギリギリで最終の飛行機に間に合ってさ。
どっちにしたって骨になっちゃったんだから、慌てなくて良かったのに。
そんなこと言う?
努力に水さすようなこと言っちゃいけないね。
姉さん、任せきりにして、ほんとすまなかった。大変だったろ。
いいの。こないだ帰って来たとき、そんな話したでしょ。あなたは日本に居ないんだから、なにかあった時は私が引き受けるって。
あん時は冗談半分だったし。
こんな早くに・・・ね。
ぜんぜん実感湧かねーよ。
私も。ふっと、父さんどこ出かけたんだろって思っちゃうのよね。
母さんは?
さっき、パーマ屋さんに行った。
パーマ屋。
これからが私の青春よっとか言っちゃって。
案外ケロっとしてるんだな。
ケロっとしてるっぽいけど・・・。
え、どうなの実際。
よくわかんない。通夜も式ん時も、別に泣いたりもしなくて、普通な感じで。
離婚するだの、顔みるのも嫌やだの言ってたし。せいせいしたって感じなのかな。
かたっぽ、ツッカケだったのよ。
え、なにが?
火葬場で、ふっと母さんの足元見たら、右は黒のヒールで、左足につっかけはいてて。
どういうこと?
うまく説明できないけど、母さん、地に足ついてないんだって思ったの。
嬉しくて。
バカ。
地に足がついてないって嬉しい状態のこと言うんだろ。
なんて言うか、ごそっと、大事な部分がもぬけの殻になったような感じ?その辺は、伴侶を持ってるキミの方がわかるんじゃない。
女の気持ちは、女の方がわかるっしょ。
あ、ミサキちゃんは?
あいつ来たがってたんだけど・・・。
交通費もバカにならないしね。
じゃなくて、あいつね・・・。
え、オメデタ?
まあ。
ほんとに、良かったじゃない。
もうちょっと生きててくれたら、会わせてやれたのに。
・・・きっとこれが、一番いいタイミングだったのよ。一人減って、一人増えて。
そうかな。そうなのかもな。
母さんも、地に足つくかもね。
今度は、三人で帰ってくるよ。
そん時までに、私も彼氏みつけなきゃね。
こないだもそんな事言ってた気がする。
おそうめんでもいかが。お腹すいたでしょ。
あ、ごまかした。
うるさい。
チリンと風鈴が鳴る。
あー、いい風だ。
うん。
終わってまた始まる