647話(2008年8月23日 ON AIR)
「 コーヒーゼリーは親の味 」

作 /腹筋善之介

 

丸福コーヒーという難波にある老舗喫茶店。有名だが、本店にはやくざのようないかがわしい感じの人が多いお店。その中でも一番奥の暗い席で。

   
カワグチ

「なんやと!まだ情報を持ってきてない?」

ヤス

「へい。どうしましょう?」

カワグチ

「うーん。儲かる話が転がる予定やったのに、あいつらケツまくってしまうつもりやろか?」

ヤス

「まさか!うちの組の恐ろしさはよう分かっているとは思いますが。」

カワグチ

「ふん。だから、ネットゲームを取引の場に使うなって忠告しといたのに。とにかくヤス、お前、ちょっくらシバイテこいや。」

ヤス

「へい。」

カワグチ

「ほんませっかくのコーヒーがまずなるわ。」

   
 

コーヒーを飲む親分さん。まずなるはと言いながら、以外においしそうに飲む。

   
カワグチ

「コーヒーちゅうもんはまず香りって言うが、違うんや。飲むその周りの雰囲気、自分の飲むテンション、そう言うもんでたいてい味が決まる。
ヤス。ワシにおいしいコーヒーを飲めるようにしてくれよ。」

ヤス

「へ、へい。」

   
 

もういっぱい飲む親分。

   
カワグチ

「おい、ヤス。お前また子供連れていくんか?」

ヤス

「親分、すいやせん。この子には、何もしてやれんので、せめて社会見学でもさせてやろうと思ってるんです。」

カワグチ

「そうかそうか、分かった。ヤスの坊主は名前、ケンヤやったな。ケンヤ。」

ケンヤ

「はい。」(ヤスが二役)

カワグチ

「父ちゃんの仕事はな、世間では肩身の狭い仕事かもしれんが、この世界ではなくてはならんもんなんや。そこんとこ、よー理解してやりや。」

ケンヤ

「はい。親分さん、いつもご指導ありがとうございます。しかもこのコヒーゼリー、絶品ですね。ごちそうさまです。」

カワグチ

「よう出来た子供や。な、ヤス。」

ヤス

「へい、ありがとうございます。」

カワグチ

「ケンヤはいくつになるんや?」

ケンヤ

「はい。今年の9月で、一代も卒業でして。」

カワグチ

「一代?」

ケンヤ

「へい。」

ヤス

「親分さん。9月10日で10歳になりよりますねん。十代にやっとなります。」

カワグチ

「おおそうか。ケンヤ、コーヒーゼリーうまかったか?」

ケンヤ

「へい。ここのコーヒーゼリーは、大人の味がします。ほろ苦い、なんと言ったらいいのか、親父が仕事に失敗して、親分さんとこに泣きついたときの、あの時の、親父の背中みたいな、そんな味がします。」

カワグチ

「おお、ケンヤはようわかっとる。ヤスがうまいこと育てとるわ。おーい店員!この子にもう一杯コヒーゼリー頼むわ。」

ケンヤ

「ありがとうございます。」

ヤス

「ケンヤ、あんまりいらんこと言うなよ。」

ケンヤ

「すまん、親父。自分の立場をようわきまえてるつもりやったが、親分さんを目の前にしたら、舞い上がってしもて、口が饒舌になりよるねん。」

カワグチ

「まあ、とにかくや、あいつらの情報を早く手に入れて戻ってこいや。あいつらはいっぺん痛い目にあわさな、アカンかもな。」

ヤス

「へい。」

カワグチ

「さあ、いったれや!」

ヤス

「へい。」

ヤス

「おい、コヒーゼリー2杯目そこそこにして行くぞ。」

ケンヤ

「親父、ちょう待ってや。さっきはコーヒークリームかけずに食べたけど、2杯目はかけてマイルドにして食べてるんや。」

カワグチ

「ヤス、食べ終わるまでまったり。」

ヤス

「へい。」

カワグチ

「ケンヤ、どんな味がする?」

ケンヤ

「へい。お袋の涙のような味ですわ。」

カワグチ

「そうか。」

ヤス

「ケンヤ、すまんな。いつか母ちゃん迎えに行こうな。」

ケンヤ

「親父が謝る必要はないよ。会いたいときには勝手に行くから。大人の事情はようわかってるつもりや。」

カワグチ

「えらい子やな。」

ケンヤ

「親分さんごちそうさまでした。ほなら親父行こうか。」

ヤス

「そうやな。親分さん、ほな行ってきます。」

カワグチ

「おお、気をつけてな。」

   
 

出て行く二人

   
カワグチ

「おーい店員!ワシにもコヒーゼリー頼むわ。コーヒーフレッシュも頼むで。…お袋の涙のような味か…。」

おわり
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