668話(2009年1月17日 ON AIR)
「 しゅうちゃく 」

作 /稲田真理(伏兵コード)

 

ワカメラーメンにお湯を入れ、待っている所だった。
バタン。

   

「早かったね。」

   
 

玄関から上がって来ない。子犬の様な目をして佇んでいる。

   

「どうしたの?」

「ごめん。」

「何が?」

「ごめん。」

「ごめんだけじゃ、ちっとも理解できないよ。」

「好きな人ができた。…これ以上、嘘つくのが辛かったから…。」

「…思いやりあるっぽい言い方をするな!」

   
 

なぜか靴はスムーズに履けた。

   

「どこ行くの!」

   
 

バタン。
階段をスムーズに走り降りる。

   

「どこ行くのよ!」

   
 

好きな人ができたと言われたのは、2度目なのだ。

   

「死ぬ!」

「ちょっと待ってよ!ちょっと待て!」

「待てるか!」

   
 

全力で落ち着かせ様とする愛の手を、全力で振払う。

   

「人間ときには間違うよねって許したのに、都合よすぎるだろ!
連れて来い!連れて来て、愛と二人で精一杯、土下座しろ!」

   

「タカシは来ないよ…。」

「タカシ!この状況で、名前で呼ぶか?…きやぁー!」

   
 

何もかも、終わった。

   

「ありか無しかだったら、無しだろ…。」

   
 

早歩きしながら考える。

   

「どっちにする?どっちにする?」

   
 

右に行けば、駅改札。左に行けば、川だ。

   

「改札…。」

   
 

電車への飛び込みだと、「やめとけば良かった!」と思っても間に合わない。

   

「左だ…。」

   
 

川岸に近付き、小さい湾になった所から、入水を始める。

   

「やっちゃうのか…。」

   
 

チャプ。
思った通り冷たいが、一歩入ってしまえばこっちのものだ。

   

「痛!」

   
 

水中で、足に何かがバンバン当たる。死を決心しても、水中の何者かが恐い。

   

「なに!」

   
 

…何かがついて来た。まさかの、ヌートリアがついて来た。

   

「と、友達気分?」

   
 

死ぬ直前、ヌートリアと友達になれるなんて、奇跡だ。橋の上には、帰宅を急ぐ人達。

   

「どう見えるんだろう…。」

   
 

数歩行けば、足はつかない。…後ろを初めて振り返ってみた。

   

「あぁ、漫画みたい…。」

   
 

愛は、大きい木の影に半分体を隠し、ジッと見ていた。

   

「見てるだけ!見てるだけ!」

   
 

このまま死ねば、無駄死にだ。

   

「死なないでおこう…。」

   
 

近くの浅瀬に避難する。
ザブン!バシャーバシャー!
追い掛けて来た。

   

「今更。今更。」

   
 

疲れて座り込む。急激に寒い。

   

「帰ろう…。」

   
 

愛は非想な声だった。川から避難した場所は、ホームレスのおじちゃんの庭先。
自殺未遂で不法侵入。ちょっとした奇跡だ。
ガサッ。

   

「え?」

   
 

ヌートリアが川から上がって来て、傍に立っていた。

   
 

   * * *

   

「バイバイ。」

   
 

愛は呆気無く、家を出て行った。
部屋の空間が私を襲ってくる。自殺して、一生後悔させようか。
相手をズタズタに刺して傷つけてやろうか。
…嗚呼。僕はさもしく、傲慢な人間だ。愛を責めれる人間じゃない。

   
おわり
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