669話(2009年1月24日 ON AIR)

「オイハギ時計」

作・大正まろん
お父さんなにそれ。
柱時計やがな。
見たらわかるって。そんなんどこにあったん。
物置。探しもんしてたら出てきてんや。
どうすんの。
さすがにもう動かんやろうな・・・。
そりゃそやろ。
お前がまだ小さいころは、動いてたんやで。
覚えてるわ。夜中にトイレ行く時とか、いきなり鳴ったりするから、心臓口から飛びだすか思うくらいビックリさせられた。
オイハギ時計っちゅうねや。
オイハギって、なに、なんか物騒な時計なん?
知りたい~?
もったいつけんと教えてよ。
これはワシの祖父ちゃんが買うた時計でな。大事に風呂敷に包んでせたろうて持って帰ってきよったわけや。
うん。
日ぃが暮れかかった山道を歩いてると、
そこへオイハギが出た。
「持ってるもんを置いていけ、そうすれば命だけは助けてやろう」
柱時計って高いんやろ?
そらそや。祖父ちゃんは、せっかく大枚はたいて柱時計を買うたのに、なんちゃう運の悪いこっちゃて思た。でも命には変えられへん。素直に持ってたもんを差し出そうとした、そん時や。ボーンボーンって、まだゼンマイもまいてへんこの時計が鳴りよった。それが山にこだまして、大きい音で響きわたる。オイハギはビックリ仰天して、なんも盗らんと逃げてった。そんで事なきを得たっちゅうわけや。
この時計が守ってくれたってことか。
まあ、どこまでホンマなんかはわからんけど。
そんなん聞くと、エエ時計に見えてきたわ。
昔はな、時計っちゅうのは家に一つだけやった。家族みーんな同じ時間を生きてたわけや。・・・今は、みんなそれぞれ時計もってるからな。
なーんか、最近午前様なんを遠まわしに非難されてるんかなぁ。
いやいや、めっそうもございません。
だって、うちの店、売り上げ厳しいから大変やねんもん・・・。
わかってますがな。
あ!お父さんこの時計、自分で修理してみたら?
ワシが?
うん。自分で修理できたら、こう価値が上がるっていうか。知り合いにそんなんやってる人おるねん。
定年してヒマやろし、生きがいでもみつけてあげようっちゅ腹やな。
いや、えと・・・。
修理はせん。このままワシの部屋に飾っとく。
スネた?
(時計を開き、針を回す)・・・お前は今この辺かな、午後三時。
三時ってなにが?
おやつの時間や。楽しいな。夕方になったら晩飯も食える。ワシはこの辺、九時半、もう十時近いかもな。寝るまでにはもうちょっとだけ間ある、でもそんなあれこれはできん。
残りの時間、人生の。
これ見るたび、後悔せんように時間使おうて思うやろ。
・・・これから見守っててね、オイハギ時計さん。
あれ、ワシ、物置でホンマは何を探してたんやったかいな。
ヤダ、お父さんたら。
終わってまた始まる