680話(2009年4月11日 ON AIR)

「Zero in」

作・樋口ミユ
紙ふぶきが舞って、町にパレードがやってくる
トランペット、太鼓、シンバル、足並み揃えてやってくる
楽しそうな太鼓の音、楽しそうな音楽、楽しいパレード
その音がやがて、太鼓は大砲に、シンバルはライフル銃の音に変わる
っっっあぁ!
生徒はベッドから飛び起きて
どうしたの?
…パレード…
こんなに汗かいて、怖い夢でも見た?
…うん…
もう少ししたら起こそうと思ってたのよ。午後の授業の時間でしょう?そろそろ先生も来るから。
…母さん…
何?
パレードの、夢を見たよ…
パレード?
うん、でね、
楽しみにしてたのね?
え?
明日だもね。パレード。
…え?
パレードがくるでしょう、明日。大通りをね、やってくるの。
何の、パレード?
さぁ、なんだろ?実はお母さんもよく知らないの。でもね、誰でも参加できるパレードなんですって。町内会でお手伝いするから、明日は朝からお母さんいないから。
参加するの?
お母さんいないからってベッドから出ちゃ駄目よ、すぐ熱出すんだから。先生が来たら大人しくお勉強なさいね。
参加するの?!
なぁに?どうしたの、するわよ。学校の子たちも参加するみたいよ。参加するとね、ゼロインっていうものが貰えるんだって。
何それ。
実はお母さんもよく知らないの。
知らないのに参加するの?
だってパレードなんだもの。お前は残念だけどこの窓から見物してなさいね。
母さん。
先生遅いわねぇ。
僕、おかしな夢を見たよ。
怖い夢ね?
パレードがやってくるんだ。
パレードなのに怖いの?
大通りにやってくるんだ。青い空に色とりどりの紙ふぶきが舞って、花びらみたいに、鼓笛隊はバラバラ太鼓を叩いて、音楽はマーチ、みんな長い長い行列をつくって歩いてる。
ちっとも怖くないじゃない。
僕はみんなに聞くの。「これはなんのパレードですか?」って。そしたらみんな知らないって言う。でもパレードだって。参加は自由だって。行列に並んでる人はみんな何か覗いてるんだ。
覗いて、何見てるの?
分からない。でも、覗いて、ぼやけた視界がはっきりしたら、みんな人差し指をひっかける。そしたら、太鼓の音が、違う音に変わるんだ。みんな、知らないうちに参加してるんだ。
キンコンと玄関のチャイムが鳴った
あ、先生来たみたいね。はぁい。
と、母は玄関へ
僕だけがベッドの上ひとりきり
僕はそれを、この窓から見下ろして何も出来ずに、テレビ見てるみたいに見てた、そんな夢…ねぇ、何のパレードがやってくるの?
鼓笛隊の太鼓の音
それはやがて、戦火の音に変わるだろう
パレードがやってくる
それは引き金を引く前触れのように
おしまい